リゼの判断基準が多少変化しているとはいえ、今すぐ情だの仲間だのという判断基準の緩和を受け入れろというのは難しい。
 歩み寄ることでしか現状は打破されないということをゼルは感覚的に理解していた。
「先物買い……ですか。リスクが高いのであまり好きではないんですが……」
 そこまで言って考える様子を見せたリゼは、少し間をとったあと頷いた。
「ですがまあ、面倒な保護者がくっついている彼女よりも、貴方の方が使い道が多いのは確かですね」
 面倒な保護者――勿論ジストのことだ――と聞いてゼルは思わず苦笑した。
 あの壁を越えていくのは確かに面倒だろう。
 エナのことに関しては今のところ害は無いが、その思考が結構危険なもので構成されていることをゼルは知っている。
 迂闊に手を出そうものなら報復が恐ろしい。
「しかし、どうします? 私が出す額は恐らく今後の貴方の労働力全てを買い取れる程のものになります。私が貴方に剣士を諦めて私に仕えるよう命じたら、貴方はどうしますか?」
 急に振られた思いもよらない方向の話にゼルは目をしばたいた。
「貴方は彼女の為に自分の人生を犠牲にする覚悟があるというのですか」
――ああ、そういうこともあんのか。
 勝手にリゼと知った仲になった気で居た。オレの悪いようにはしないだろうとどこかで思っていたのだ。
 だがどうやら、そんなに甘いものではないらしい。
 ゼルは背筋を伸ばしてリゼを見た。
「諦めてたまるかよ」
 エナを助けたいと思った自分には金が無い。
 だから金をつくるために金を持っているリゼに労働力を差し出した。
 ただそれだけのことなのだ。
 夢を諦める理由にはならない。
「助けられるかもしんねェ仲間を見捨てて剣士になったところで、そんなのはオレが望む剣士じゃねェ。オレは剣士で在るために、こうするんだ」
 ゼルは自信を持って笑みを刻んだ。
 演技では出来ない、彼の心底から出た笑みにリゼが目を細める。それは疎ましそうとも眩しそうともとれるものだった。
「それに、アンタはひとつ思い違いをしてるぜ。オレは自分の人生を犠牲にするつもりなんか、これっぽっちも無ェぞ。そういうの、アイツ嫌がるしな」