「……それより気になることがあるのですが、正面左側のブースに居る護衛……あの傍迷惑な男じゃありません?」
その言葉通りの場所に普通に視線を投げると、おそらく話題に登った人物であろう男とばちりと目が合ってゼルは慌てて目を逸らした。
そういう分かりやすい行動を慎めと言われたばかりだったことを思い出したからだ。まあ、思い出した時には既に遅かったのだけれど。
ゼルは唇の動きを読まれぬように口元を手で覆った。
腹話術という高度な技術を持たない以上、こうするしかない。
「確かに似てンな……」
外套から覗く髪は深い深い紅だし、ぱっと見た時の体つきもよく似ている。
「……ということは、別人ですか?」
「ああ、間違いねェ」
剣を手に戦う者として、相手の力や間合いを読む能力に長けているゼルは、きっぱりと言い切った。
似てはいるが、ジスト本人より少し身体の線が細い。背丈もおそらく小指の一関節くらいは違うだろう。
影になっていてわかりづらかったが、合った目の形も色もジストのそれとは違っていたように思う。
何より、その身を包む空気が違っていた。
目の前の男には重厚な威圧感がある。触れたら切れそうだと周囲に思わせる、殺意に近いものが常に全身から放たれている。
ジストにはそういったわかりやすい重圧が無い。
あるのは圧倒的な存在感だけだ。
それがかえって捉え所が無い不気味さを醸し出す。
ゼルがジストを敵に回したくないなと思うのは、そういうところなのだ。
「つーか、目が悪ィなら眼鏡かけりゃあいいのに……」
「嫌です。それから無駄口は……――」
おおかた、慎みなさいとでも続けようとしたのだろうリゼの声に、スピーカーからノイズ音が割り込んだ。
そして、初老の男の声がスピーカーから高らかにオークションの開会を告げる。
「パゴニの居城によぉぉうこそお集まりくださいました、司会進行を務めさせていただきますわたくし、リヴェルと申します! どうぞよろしくお願い致します! さて世界を有する六名の諸貴公の方々、今宵は白金の月! 二度とはお目にかかれない貴重ぉぉな品の数々を、どぉぉうぞ存分にご堪能くださいませ!」
格闘技の試合でも始まるのかと思うような、熱の篭ったマイクパフォーマンスにゼルは耳を塞いだ。
その言葉通りの場所に普通に視線を投げると、おそらく話題に登った人物であろう男とばちりと目が合ってゼルは慌てて目を逸らした。
そういう分かりやすい行動を慎めと言われたばかりだったことを思い出したからだ。まあ、思い出した時には既に遅かったのだけれど。
ゼルは唇の動きを読まれぬように口元を手で覆った。
腹話術という高度な技術を持たない以上、こうするしかない。
「確かに似てンな……」
外套から覗く髪は深い深い紅だし、ぱっと見た時の体つきもよく似ている。
「……ということは、別人ですか?」
「ああ、間違いねェ」
剣を手に戦う者として、相手の力や間合いを読む能力に長けているゼルは、きっぱりと言い切った。
似てはいるが、ジスト本人より少し身体の線が細い。背丈もおそらく小指の一関節くらいは違うだろう。
影になっていてわかりづらかったが、合った目の形も色もジストのそれとは違っていたように思う。
何より、その身を包む空気が違っていた。
目の前の男には重厚な威圧感がある。触れたら切れそうだと周囲に思わせる、殺意に近いものが常に全身から放たれている。
ジストにはそういったわかりやすい重圧が無い。
あるのは圧倒的な存在感だけだ。
それがかえって捉え所が無い不気味さを醸し出す。
ゼルがジストを敵に回したくないなと思うのは、そういうところなのだ。
「つーか、目が悪ィなら眼鏡かけりゃあいいのに……」
「嫌です。それから無駄口は……――」
おおかた、慎みなさいとでも続けようとしたのだろうリゼの声に、スピーカーからノイズ音が割り込んだ。
そして、初老の男の声がスピーカーから高らかにオークションの開会を告げる。
「パゴニの居城によぉぉうこそお集まりくださいました、司会進行を務めさせていただきますわたくし、リヴェルと申します! どうぞよろしくお願い致します! さて世界を有する六名の諸貴公の方々、今宵は白金の月! 二度とはお目にかかれない貴重ぉぉな品の数々を、どぉぉうぞ存分にご堪能くださいませ!」
格闘技の試合でも始まるのかと思うような、熱の篭ったマイクパフォーマンスにゼルは耳を塞いだ。

