*
おかしい。この地下は何かが変だ。
そう思ったのは、男たちを倒しては逃げ、倒しては逃げを繰り返しながら、二十人目の男の脳天に固く結んだ両の手を打ち下ろした頃だった。
――上の階に行く方法が無い。
縦横無尽に駆け回る中でこの疑問が頭をもたげた時、エナは来た道を戻ることを考えた。
それをしなかったのは、この地下が広く、空間把握能力が低ければ間違いなくあっという間に迷子になるという複雑に入り組んだ代物で、尚且つ、もうかなりの距離を来てしまったという事実のせいである。
勿論まだ踏み込んで居ない部屋も多数あるが、それでもその広い地下の半分程を、エナは日常ではなかなか発動されることの無い集中力でもって完璧に脳に叩き込んでいた。
その何処にも階段が見当たらないというのは、やはりおかしい。
牢や懲罰房もあったが、座敷も多くあり、台所や衣装部屋、茶室や弓道場まであり、人が生活する空間として完全なまでに調っている。
警備駐屯の為の座敷以外に現在使われている気配は無いものの、人が生活していた気配が残っている以上、出口や上に続く階段があって然るべきだと信じ、此処まで来たのだが。
――シェルター、かな。
外からの侵入を拒むような造りのそれらをエナは注意深く観察しながら、内心で首を捻る。
それも、割と古い時代のものだ。
見たところ、機械類も無ければ電気が通っている気配も無い。
台所にあったのは、焜炉(コンロ)ではなく釜戸(カマド)だった。
高度な技術をいくらでも取り入れることができる財源を持つこの街に於いて、原始的で且、様式も他とはまるで違う迷路のような回廊。
だからこそ、これがシェルターだとしてもそれが過去の産物であることが伺えた。
そしてオークション使用の以外の何らかの理由によって意図的に残されている建造物なのだ、とも。
――出入口すら無いって……。
完全に隔離されている。
この地下屋敷が元々、外界と繋がることを拒むためのものだったとしたら、本来の出入口は既に塞がれてしまった可能性がある。
現在は時計塔にしか出る手段は残されていないのかもしれない。
もしそうであるならば、完全に無駄足だ。
おかしい。この地下は何かが変だ。
そう思ったのは、男たちを倒しては逃げ、倒しては逃げを繰り返しながら、二十人目の男の脳天に固く結んだ両の手を打ち下ろした頃だった。
――上の階に行く方法が無い。
縦横無尽に駆け回る中でこの疑問が頭をもたげた時、エナは来た道を戻ることを考えた。
それをしなかったのは、この地下が広く、空間把握能力が低ければ間違いなくあっという間に迷子になるという複雑に入り組んだ代物で、尚且つ、もうかなりの距離を来てしまったという事実のせいである。
勿論まだ踏み込んで居ない部屋も多数あるが、それでもその広い地下の半分程を、エナは日常ではなかなか発動されることの無い集中力でもって完璧に脳に叩き込んでいた。
その何処にも階段が見当たらないというのは、やはりおかしい。
牢や懲罰房もあったが、座敷も多くあり、台所や衣装部屋、茶室や弓道場まであり、人が生活する空間として完全なまでに調っている。
警備駐屯の為の座敷以外に現在使われている気配は無いものの、人が生活していた気配が残っている以上、出口や上に続く階段があって然るべきだと信じ、此処まで来たのだが。
――シェルター、かな。
外からの侵入を拒むような造りのそれらをエナは注意深く観察しながら、内心で首を捻る。
それも、割と古い時代のものだ。
見たところ、機械類も無ければ電気が通っている気配も無い。
台所にあったのは、焜炉(コンロ)ではなく釜戸(カマド)だった。
高度な技術をいくらでも取り入れることができる財源を持つこの街に於いて、原始的で且、様式も他とはまるで違う迷路のような回廊。
だからこそ、これがシェルターだとしてもそれが過去の産物であることが伺えた。
そしてオークション使用の以外の何らかの理由によって意図的に残されている建造物なのだ、とも。
――出入口すら無いって……。
完全に隔離されている。
この地下屋敷が元々、外界と繋がることを拒むためのものだったとしたら、本来の出入口は既に塞がれてしまった可能性がある。
現在は時計塔にしか出る手段は残されていないのかもしれない。
もしそうであるならば、完全に無駄足だ。

