緋色の暗殺者 The Best BondS-4

 そんな思いは如実に顔に出ていたのだろう。
「わかってます? 私は立場をおして貴方がたに協力しているんですよ? それくらいしてくれても罰はあたらないと思いますが?」
 彼は「犯罪者に手を貸しているんですからね」とは言わなかった。
 だが確かにはっきりと伝わってきた言外の思いに、ゼルは馬鹿正直に息を呑んだ。
 良くも悪くも、彼の心根は善良に出来ているのだ。知ったことかと言い切る傲慢さを彼は自身に許さない。
「……わかった」
 ゼルは不承不承頷いた。
 いくら身の潔白を叫んだところで世間から見れば立派な犯罪者であることに変わりはないのだ。
 しかも困ったことに潔白だと言い切れない箇所もあったりする。
 固い顔をしていたのだろう。
 リゼがくすりと笑った。
「ああ、貴方は素直すぎるきらいがありましたね。深刻に事態を捉えすぎないでくださいよ。日常を心がけてくれれば結構です。差し迫った時こそ冷静で居ることが、視野を狭めない唯一の方法です」
 諭すような物言いはとても静かで、いつもの嫌味染みた響きがなかったせいもあり、その言葉はすとんとゼルの中に落ち着いた。
「……まァ、な」
 他にすることもねェしな、と自身に言い聞かせる。
 見るからに重厚な棚に視線を遣ると、並べられた産地が違う何種類かの茶葉や砂糖の小瓶やレモン、美術品のように飾られた、持っただけで割れそうな繊細なティーカップやポットが目に入る。
 今の今までそんなものがそこにあるという認識さえなかった。
 目の前のものしか見えなくなるほど、自身は焦っていたのだ。
 これでは気付けるものにも気付けない。
「……すげェ珍しい茶葉。確かに、飲まねェ手はねェよな」
 紅茶をいれる準備を始めたゼルの背中に、思い出したような声がかけられる。
「ああ、それから一つ言っておきますが」
 なんだよ、と半身だけ振り返ると、リゼは柔和に微笑んだ。
「この屋敷から簡単に出られると思っていたようですが、忘れないでください。貴方の方向音痴は致命的です」
「……わかったよ」
 ――ひくり、と鼻に皺が寄った。