緋色の暗殺者 The Best BondS-4

「言いませんよ、馬鹿ですねぇ。貴方が居なくなったらいざという時、誰が私を守るんですか」
 敢えて言わなかったのだと知り、ゼルはますます顔を顰める。
「アンタなら自分の身くらい守れンだろォが」
「命だけならどうにかなるかもしれませんがね……血を流さぬ為に戦う者は、表立って手を汚さないことが大事なんですよ。……血を流す戦い方しか知らない貴方がたにはわからないでしょうね」
 揶揄するような言葉にかちんとくる。
 だが事実、剣を手に戦っているのだから否定の余地は無い。
 選んだのは血で血を洗うことを覚悟した生き方だ。剣士の極みを求める以上、それは必然ともいえた。
 それでも野蛮だと中傷したようなリゼの言葉と態度に腹の虫は収まらず、ゼルは思ったことをそのまま口にした。
 悪意はなかったが、悪気がなかったかといえばわからない。
「それってよ、口では何て言ってても結局は自分だけ戦いから逃げてるってことじゃねェかよ。一番汚ェし、卑怯だ」
 その言葉はリゼの逆鱗だったのかもしれない。
 暗く憎悪のような熱を帯びた瞳で蔑むように見据えられたとき、ゼルはどきりとした。いうなれば、蛙が蛇に睨まれたときの心境だ。蛙になったことがないので勿論推測でしかないが。
「では聞きますが、強ければ必ずしも勝者になれますか。今から全人類で殺し合いをしたとして、最後に立っている者は、今、世界で一番強い者なんでしょうか。最後に残る人は、最もか弱い者かもしれません。臆病者かもしれません。ですが、まぎれもない勝者です」
 険を多分に含んだ声が心なしか早口に告げた。それだけ神経が昂ぶっているのだ。
「そして私は勝者で居続けなければいけません。そのためには出ない杭も打つし、時には間違った主張にも口をつぐみます。それが私の生きる世界なんですよ」
 ゼルはといえば、言葉を失ったまま、珍しく感情を顕にしたリゼをただただ見ていた。
 感銘を受けたとまではいかないが、目から鱗の衝撃を受けた。
 強者と勝者は違うなど、考えたこともなかったのだ。
 強き者と剣を交えそれに勝利すればまた一歩、世界一の強者に近づく。
 その考えを疑問に思うことなどなかった。
 戦って勝利することだけが、今日を生き抜く唯一の方法だと思っていた。