「この世界の中枢こそ弱肉強食です。何よりも原始的な仕組みなのですよ。ダルシェウルの現社長はまだ若く血気も盛んです。旧家に礼を尽くすような人物ではありません」
幻の国の皇帝の話をしているものとばかり思っていたゼルは首を傾げる。
「……社長?」
「ああ、そうですね。ダルシェウルが国として名を挙げたのはごく最近なんです。それまでダルシェウルというのは主に機械関連を手掛ける会社だと認識されていました。事実、その国の所在が不明である時点で国というよりは巨大企業と認識するべきかもしれませんね。貴方のその義手もおそらくダルシェウルのものだと思いますよ」
ゼルは自分の義手に目を遣った。
手首の部分にある小さな刻印には、確かにそれらしき文字の羅列がうかがえた。
「ぅおお、マジかよ。……急に親近感」
「そんなもの湧かせている暇などありませんよ」
ぴしゃりと言われてゼルはそれもそうだと視線をリゼに戻した。
「……まあそんなわけでして、ダルシェウルの帝王のことを未だに社長と呼ぶのですよ」
つまりは、会社の社長が「実は俺、帝王なんだぜ」と主張し始めたということなのだろう。
かといって国の所在もはっきりしない眉唾ものの話だから、未だにその自称帝王は社長と呼ばれ続けているのだ。
「ビジネスにあるのは損得のみ。社長にあるものも、また然別。そして今のハセイゼン家には、ダルシェウルに益を齎す材料がありません。よって、交渉決裂は必至です」
書物を手に入れられない理由はわかった。
だがどちらかというと本題はこれからだ。
「で、エナには会えたンだろ? 怪我は? してなかったか?」
エナのオークション出品登録の取り消しが難しいというのは、端からリゼに言われていたことだった。
エナは国際指名手配犯である上に、このプレタミューズでは不法侵入をしている。それも極秘中の極秘であるプラチナオークションに関わる施設に、だ。
この街では貴族がルール。
不利益になる可能性を秘めた存在を簡単に手放したりはしないだろう。
エナの罪状に【船及び金品の強奪】があるから余計に警戒されているというのもある。
だから出品されるのを取りやめることが出来なかったとしても仕方がない。せめて一目見(マミ)え、脱出用の鍵の一つでも手渡すことが出来ればいいと、それくらいの心積もりでいたのだ。
幻の国の皇帝の話をしているものとばかり思っていたゼルは首を傾げる。
「……社長?」
「ああ、そうですね。ダルシェウルが国として名を挙げたのはごく最近なんです。それまでダルシェウルというのは主に機械関連を手掛ける会社だと認識されていました。事実、その国の所在が不明である時点で国というよりは巨大企業と認識するべきかもしれませんね。貴方のその義手もおそらくダルシェウルのものだと思いますよ」
ゼルは自分の義手に目を遣った。
手首の部分にある小さな刻印には、確かにそれらしき文字の羅列がうかがえた。
「ぅおお、マジかよ。……急に親近感」
「そんなもの湧かせている暇などありませんよ」
ぴしゃりと言われてゼルはそれもそうだと視線をリゼに戻した。
「……まあそんなわけでして、ダルシェウルの帝王のことを未だに社長と呼ぶのですよ」
つまりは、会社の社長が「実は俺、帝王なんだぜ」と主張し始めたということなのだろう。
かといって国の所在もはっきりしない眉唾ものの話だから、未だにその自称帝王は社長と呼ばれ続けているのだ。
「ビジネスにあるのは損得のみ。社長にあるものも、また然別。そして今のハセイゼン家には、ダルシェウルに益を齎す材料がありません。よって、交渉決裂は必至です」
書物を手に入れられない理由はわかった。
だがどちらかというと本題はこれからだ。
「で、エナには会えたンだろ? 怪我は? してなかったか?」
エナのオークション出品登録の取り消しが難しいというのは、端からリゼに言われていたことだった。
エナは国際指名手配犯である上に、このプレタミューズでは不法侵入をしている。それも極秘中の極秘であるプラチナオークションに関わる施設に、だ。
この街では貴族がルール。
不利益になる可能性を秘めた存在を簡単に手放したりはしないだろう。
エナの罪状に【船及び金品の強奪】があるから余計に警戒されているというのもある。
だから出品されるのを取りやめることが出来なかったとしても仕方がない。せめて一目見(マミ)え、脱出用の鍵の一つでも手渡すことが出来ればいいと、それくらいの心積もりでいたのだ。

