万一彼女のことだったとしても、この男が彼女にとってどんな存在なのか。
 それがわからずして答えることなど出来やしない。
 言葉が出ないほど萎縮していても、少年はエナを売ることだけはしたくなかった。
「よし、わかった。質問を変えよう」
 男はおどけるように肩を竦めて、転がっていた指輪を拾い上げた。
――返して!!
 その思いは言葉にならない。
 指先がぴくりと動いた。それが、精一杯だった。
 そして不幸なことに、相手はその小さな反応を見逃してくれるほど生易しく出来てはいなかったのだ。
 男は口許にゆったりとした笑みを刻んだ。
「はた迷惑なじゃじゃ馬娘――知ってるよね?」
 確信を持って問う声音は目が眩むほどに圧倒的。
 人間の匂いを持たないその男は美しい――美しい深紅の鬼。