「足手まといってこと……だよね」
「うん、そゆこと、かな」
 わかっていたことだけれど、肯定されると気分は否応なしに沈んでしまう。
 一緒に居たかった。離れたら二度と会えない気がする。
 けれど逃げられない状況になったとき足手まといにしかならないのもわかっている。
 自身の心に問うて――意を決して顔を上げた。
「……いいよ。守ってくれなくていいから。そのときは、見捨ててくれていい……」
 その刹那、エナの顔色がさっと変わった。
「……馬鹿ったれ!」
 先程の自分の比ではない声の大きさに、びくりとして身体を震わせる。
 理由はわからないけれど彼女は――本気で怒っている。
「お、お姉ちゃ……!」
 お願いだから大声を出さないでと自身の口許に人差し指を添えるが、そんな身振り手振りでは彼女を止めることはできなかった。
「馴れ合いなんかで与えられたチャンス、逃がすな、潰すな!!」
「わ、わかったから。お願い、静かに……」
 こう言う以外になかった。
 足音はだいぶ近づいている。こんな大声は危険だ。
 おたおたとしているとエナがふと肩の力を抜いて口を引き結ぶような笑みを浮かべた。
 今怒鳴っていたとは思えない極端な変化。
「また、会おう」
 彼女は何故こうも予測できない言葉を紡ぐのだろう。
 その大体が衝撃的で、理解した時に想像もしない喜びをくれる。
 少年は目を見開いて信じられない心持ちでエナを凝視した。
「……また会えるの?」
「生きてさえいれば、きっと」
 要領を得ない言葉だと思った。自身が思っているよりもずっと広いに違いない世界でどうやってまた会えるというのか。
 視線を落とした少年に彼女は拳をずい、と押し付けた。
「?」
「手、出して」
 読めない行動に首を傾げながらも言われたとおりに手を出すと、エナはそこに拳を置いた。
「これ、預けとく。外に出たらアルタイル座、訪ねて。カードキーはきっと、さっきの男が持ってるはずだから」
 おそらくエナの耳にももう足音が聞こえているのだろう。彼女は口早にそう告げると、障子の前へと足を進めた。
 掌の上には彼女が身につけていた指輪が乗っていた。
 それはきっと彼女なりの再会の約束。
 少年はそれをぐっと握りしめた。