緋色の暗殺者 The Best BondS-4

――あのお姉ちゃんみたいにきらきらとした人が居る世界……。
 堂々と生きることを許された人たちが住まう世界は少年にとっては本の中だけに存在する場所だった。
 けれど彼女と共にであれば、その世界に飛び出して行こうと思えた。
 連れていってくれるのであれば、喜んでついていっただろう。
 けれど、彼女は差し伸べた手をあっさりと引っ込めた。
――だいたい、薄情なんだ。あんな風に焚きつけておいて、結局放り出すんじゃないか。
 あれは、どう考えても一緒に逃げる流れだった。
 彼女の場違いな程の奔放さで、無理矢理にでも引きずられていく流れだったではないか。
――流れ?
 ふと、自身の思考に引っかかりを覚える。
 流れとは何だ。その流れは誰が決めるのだ。
――僕ではない、誰かだ……。
 そう思った瞬間、少年はぞくりと背筋を震わせた。
 彼女は何と言ったか。確か、自分で考えた? と聞きはしなかったか。
 ずっと考えてきたつもりだ。だって他にすることが無いのだから。
 常に考えて自分で答えを出してきたつもりだった。
 出口の見えない【何故】に自身で理由をつけてきた。
 けれど今感じる強烈な違和感は何だ。不安や焦燥にも似た感覚は一体何だ。
 心の内側から何かが引っかいている。
 自身が本当に求める答えが、ここにあるのだと主張している。
――何かが、生まれようとしてる。
 けれど殻は破れない。その正体は掴めない。
「考え、るんだ……」
 少年はぽつりと、けれど強く力を込めて呟いた。
 本当に自分は考えてきたのか。違うというのなら、一体何が違うのか。
 考えるということは、一体どういうことなのか。
 彼女が言った“免罪符”の意味が其処にはあるはずなのだ。
「免罪符……罪を許す書状……悟りに縋るって……?」
 無視するには反発心を強く受けすぎた言葉の数々。
「悟ると楽……? 僕が生きることに手を抜いてる……って言いたかった?」
 そこまで考えた少年は、はっと目を瞠る。
「手を伸ばす……そうか、やっぱり、そうなんだ……!」
 彼女はずっと同じことを繰り返し告げていたのだ。
 誰かの作る流れに流されるままに、捻り出した理由を盾に諦めていた自身に。与えられた現状以上のものを見ようとしなかった自身に。