おもちゃ、本、餌。与えられたものは決して充分とは言えなかったけれど、そこで生まれ育った自身と、自分の分身であり唯一の同胞にはそれが世界の全てだった。
何故自分たちが【そこ】に居るのかと疑問を持ったのは、もう随分昔のことだ。
与えられた本に色とりどりに描かれた【そこ】ではない風景を見つけて、唯一笑顔を見せてくれる大人に聞いた。
「ここはどこ? これが見たい」
優しい大人は、とても気分が悪そうな顔をした。否、今ならばその顔が悲しみであり憐れみの表情だったのだとわかるのだが、その頃の自分たちには、苦しい、痛い、気分が悪いという感情が主なもので、悲しみという感情などまるで知らなかったのである。
その景色をどうしても見たいと駄々を捏ねる自分たちに窮した優しい大人は、その風景を見せられない代わりにと色んな話を聞かせてくれた。
優しい大人は、よく会いにきてくれるようになった。
本を読んでくれたのもその人だったし、字の正しい書き方を教えてくれたのもその人だった。
小さなオルガンで音を教えてくれたし、縄跳びや一輪車もその人から学んだ。
親のように思っていたのかもしれない。
けれど自分たちはその手に裏切られた。
裏切られ、その果てに同胞は命を落とした。
何故、と責めた自身にその人は顔を苦痛に歪めながら言った。
“貴方たちは、人間じゃないから”
「……――ああ」
思い出してしまった、と少年は目を伏せた。
傷つけられても、裏切られても、化け物であることが全てを帳消しにしてしまう。
人間ではないということは、それだけで罪なのだ。
人より多少聴覚と嗅覚に優れ、ただ人間に食欲を覚えるという、ただそれだけの違いでしかないのに。
人間にだって食の好き嫌いはあるだろう。それと同じで人間の肉が好きなだけで、食べなければ生きて行けないというわけではない。
それでも自身は人間では無いとカテゴライズされ、あれこれと調べられた上に非難の権利すら当然のように奪われる。
理不尽と思いはしても、そこに反発するような気骨を少年は持っていなかった。だからこそ為すがまま奴隷への道を歩んだのだし、今も開け放たれた扉を潜ることが出来ずに居るのだ。
限られた空間で生きてきた少年にとって外の世界は余りに広く、憧憬と同時に恐怖をも抱かせる。そう、彼女に抱いた印象が外の世界そのものなのだ。
何故自分たちが【そこ】に居るのかと疑問を持ったのは、もう随分昔のことだ。
与えられた本に色とりどりに描かれた【そこ】ではない風景を見つけて、唯一笑顔を見せてくれる大人に聞いた。
「ここはどこ? これが見たい」
優しい大人は、とても気分が悪そうな顔をした。否、今ならばその顔が悲しみであり憐れみの表情だったのだとわかるのだが、その頃の自分たちには、苦しい、痛い、気分が悪いという感情が主なもので、悲しみという感情などまるで知らなかったのである。
その景色をどうしても見たいと駄々を捏ねる自分たちに窮した優しい大人は、その風景を見せられない代わりにと色んな話を聞かせてくれた。
優しい大人は、よく会いにきてくれるようになった。
本を読んでくれたのもその人だったし、字の正しい書き方を教えてくれたのもその人だった。
小さなオルガンで音を教えてくれたし、縄跳びや一輪車もその人から学んだ。
親のように思っていたのかもしれない。
けれど自分たちはその手に裏切られた。
裏切られ、その果てに同胞は命を落とした。
何故、と責めた自身にその人は顔を苦痛に歪めながら言った。
“貴方たちは、人間じゃないから”
「……――ああ」
思い出してしまった、と少年は目を伏せた。
傷つけられても、裏切られても、化け物であることが全てを帳消しにしてしまう。
人間ではないということは、それだけで罪なのだ。
人より多少聴覚と嗅覚に優れ、ただ人間に食欲を覚えるという、ただそれだけの違いでしかないのに。
人間にだって食の好き嫌いはあるだろう。それと同じで人間の肉が好きなだけで、食べなければ生きて行けないというわけではない。
それでも自身は人間では無いとカテゴライズされ、あれこれと調べられた上に非難の権利すら当然のように奪われる。
理不尽と思いはしても、そこに反発するような気骨を少年は持っていなかった。だからこそ為すがまま奴隷への道を歩んだのだし、今も開け放たれた扉を潜ることが出来ずに居るのだ。
限られた空間で生きてきた少年にとって外の世界は余りに広く、憧憬と同時に恐怖をも抱かせる。そう、彼女に抱いた印象が外の世界そのものなのだ。

