緋色の暗殺者 The Best BondS-4

 言葉が出なかった。
 この瞬間、彼は言葉がなんたるかすら忘れてしまうほど彼女に魅入っていた。――瞳の色の変化にさえ気付かずに。
「けど、それが何?」
 そこにあるのはおいそれと踏み込めない彼女の世界。
 危うく、美しく、果てなく強い。
「化け物だってなんだって、あたしは、活きることに手を抜いたり、しない」
 氷を思わせる、澄んだ蒼さに途方もない熱を見た。
 そして思い出す。赤く燃え盛る炎より、蒼い炎の方が遥かに熱いということを。
「考えること、やめたりしない。どれだけ、辛くても」
 燃える、燃える。そして溶かしていく。
 彼女に感じていた食欲を、飢えた欲望を。
「価値なんて自分の言い値だ」
 そうであることを課した彼女はこの世の強者であると、少年の本能が教えた。姿や力ではなく、その存在力が彼女の価値を確かに告げていたのだ。
「だから考える。だから手を伸ばす。真価も未来も、その先にしか――ない」
 化粧台の脚を放り投げ、頬の血を拭った彼女の口許は弧を描いていた。
「――手を伸ばせ。」
 ふてぶてしいの一言に尽きる、強気な笑みに相応しいその瞳を少年は沈黙を守ったまま見上げた。
 なんて眩しく耀かしく、そしてなんと凛とした佇まいなのだろうか。
――この人は、違う世界に住む人だ。
 どれほど羨もうとも、その隣に立つことは許されない。
 次元を隔てて、尚遠い。
 こんな風に強く言い切れたなら、彼女の立つ場所に近付けるのだろうか。
「本能を否定するより、受け止めることで見えることが、きっとあるよ」
 だから、ここから出よう。
 と、両手を差し伸べた彼女は無邪気に笑った。