緋色の暗殺者 The Best BondS-4

 「お前の知り合いか」と緑がかった金髪の青年の声に、紅の青年は彼女から目を逸らして半眼を閉じ、喉を鳴らした。
「――さあ?」
 意味深長な答えが恍(トボ)けたようにも見えたことを少年は覚えていた。
 その後、エナは一言も口にしようとしなかったし、男も視線を向けるだけで何も言わなかった。
 男達が去って尚、エナは彼らが居た場所を睨みつけるような目で見ていた。何かに苛立っているのかと思ったが、そうでないことを少年はすぐに知ることとなった。
「ああっもう! やめやめ!」
 そう言って頭を掻き毟りながら立ち上がったエナの瞳には、怒りも不安もなく。まるで何かのパーティーに列席する為の服を選ぶかのようにクローゼットを漁りだしたのである。
 そして着替えが終わった後は、何の因果か嫌がらせか、エナは執拗なまでに自分に話しかけ始めたのだ。
 ここって空気悪いよね、だとか、髪の毛絡まってるよ、引っこ抜いていい? だとか。
 律儀に答えている間に、最初に使っていたはずの敬語などは何処かへ行ってしまった。
「ね、キミも調べて。あんま時間無いんだから」
 手錠をつけていながら器用に牢の隅から絨毯を巻き上げていたエナから掛けられた声に、少年は回想を中断させて座り込んだ。
「いいよ僕は。逃げようだなんて思ってないし」
「あたしは良くない! どうせすること無いんでしょ、だったらほら手伝って!」
 早く早く、と急かすエナに少年は口を歪めた。
 強引だし、図々しい。
「……自分勝手」
 少年はぼそりと呟く。
 どうせこれから誰かに買われて、自由の無い生活を強いられるのだ。
 せめて今この時くらい、行動の強制はされたくない。
 そう思うのに、威圧的ではない強引さに少年は戸惑っていた。
 今まで自身に対し威圧的に接しなかった人間は皆無だった。
 否、居たことは居たが、一人は自身と同じ境遇の持ち主だったし、もう一人は、その場に他の誰かが居ればやはり威圧的に命令を下した。
 行動を強制されているということに変わりないのに、今までの人間と目の前に居るこの人間とは、何故こうも違うのだろう。何が、違うのだろう。
 そんなことを思いながら、ぼうっとエナを見ていると、彼女は業を煮やしたのか絨毯を力いっぱい床に叩きつけた。そして色違いの瞳がきつく自身を捉える。
 その鋭さに体がびくりと恐怖の反応を示す。