*
にゃにゃあ、と何かを喋っているかのような鳴き声と床を叩く革靴の音が長い回廊に響く。
「わぁかったってば。そんなに急かすなよ。ジストさん、もう若くないのよ?」
年齢を不詳にする美貌の青年のあしらう声に犬の容貌をした生き物から不満の声があがる。
ジストは持っていたエナの三節棍を溜め息と共に肩に乗せた。
「あのね、お前は鳴いてるだけだけど、こっちは無意味な実働した後なんだ、もう少し労わってくれてもいいんじゃない?」
旧時計塔の前でうろうろしていたラファエルを見つけたのは半刻前。
一匹で居るラファエルを見た瞬間に過ぎった思いは、もはや言う必要も無いほど慣れ親しんだものだった。
あの問題児め、という呆れと、本当に俺を退屈させない女だ、という感心。それと、エナちゃんはそうでなくちゃという昂揚。
ゼルがエナから目を離したというのは明白で、全てが片付いたらそれを口実にゼルをみっちり虐めて遊ぼうと心に決めてラファエルが案内するままに旧時計塔に足を踏み入れた。
そこで見つけたダウンジャケットの羽根に塗れたエナの三節棍で予想は確信に変わり、安否を確かめるために、たまたまタイミングよく動いた昇降機に飛び乗り、男を締め上げた。
そして彼は今、旧時計塔からオークション会場までを繋ぐ地下通路を歩いている、と。そういうわけである。
「障害のある恋ほど燃えるって言うけどさぁ。こうも障害だらけだと進展しないと思わない?」
犬相手に愚痴を零すが、ラファエルはつんと顔を背けるだけでうんともすんとも言わない。
「……ふぅん。ライバルの話は無視か、そうかそうか」
相手にされないとわかっていても――犬に多くを求めるほうがおかしい――、黙々と歩くのは退屈極まりない。
「でも、今のうちに媚び売っといた方がいいと思うけどな。エナちゃんがジストさんと結婚したら、もれなくお前の主はこの俺になるんだよ?」
ちらりと目を向けたラファエルは鼻を鳴らして歩調を速めた。
「くだらないこと言ってないでさっさと歩け」ということだろうか。
人間の言葉を完璧に理解しているのではないかと思える仕種である。
「……あー、誰か襲ってこないもんかなあ」
間延びした口調で呟いてみる。
にゃにゃあ、と何かを喋っているかのような鳴き声と床を叩く革靴の音が長い回廊に響く。
「わぁかったってば。そんなに急かすなよ。ジストさん、もう若くないのよ?」
年齢を不詳にする美貌の青年のあしらう声に犬の容貌をした生き物から不満の声があがる。
ジストは持っていたエナの三節棍を溜め息と共に肩に乗せた。
「あのね、お前は鳴いてるだけだけど、こっちは無意味な実働した後なんだ、もう少し労わってくれてもいいんじゃない?」
旧時計塔の前でうろうろしていたラファエルを見つけたのは半刻前。
一匹で居るラファエルを見た瞬間に過ぎった思いは、もはや言う必要も無いほど慣れ親しんだものだった。
あの問題児め、という呆れと、本当に俺を退屈させない女だ、という感心。それと、エナちゃんはそうでなくちゃという昂揚。
ゼルがエナから目を離したというのは明白で、全てが片付いたらそれを口実にゼルをみっちり虐めて遊ぼうと心に決めてラファエルが案内するままに旧時計塔に足を踏み入れた。
そこで見つけたダウンジャケットの羽根に塗れたエナの三節棍で予想は確信に変わり、安否を確かめるために、たまたまタイミングよく動いた昇降機に飛び乗り、男を締め上げた。
そして彼は今、旧時計塔からオークション会場までを繋ぐ地下通路を歩いている、と。そういうわけである。
「障害のある恋ほど燃えるって言うけどさぁ。こうも障害だらけだと進展しないと思わない?」
犬相手に愚痴を零すが、ラファエルはつんと顔を背けるだけでうんともすんとも言わない。
「……ふぅん。ライバルの話は無視か、そうかそうか」
相手にされないとわかっていても――犬に多くを求めるほうがおかしい――、黙々と歩くのは退屈極まりない。
「でも、今のうちに媚び売っといた方がいいと思うけどな。エナちゃんがジストさんと結婚したら、もれなくお前の主はこの俺になるんだよ?」
ちらりと目を向けたラファエルは鼻を鳴らして歩調を速めた。
「くだらないこと言ってないでさっさと歩け」ということだろうか。
人間の言葉を完璧に理解しているのではないかと思える仕種である。
「……あー、誰か襲ってこないもんかなあ」
間延びした口調で呟いてみる。

