ゼルは「そうなんだよ」と相槌を打って一呼吸置いた。腕の止血に取り掛かりながら、ゼルは口許に小さな笑みを浮かべる。
「アイツは、一回情が湧いちまうと何がなんでも助けようとするヤツでよ。それこそ相手が敵意剥き出しのヤツだろうがお構いなしに、ぎりぎりまで命を張る。そんでその情が消えることはきっと無ェんだ」
 あの少女はいつだって自身の心と真っ直ぐに向き合う。そして情を抱えた自身のその心を彼女は決して裏切らない。迷って惑って傷だらけになっても、少女は覚束無いその足取りを向かうべき方向へと進めることだけはやめようとはしない。
「だからよ……アンタがもしアイツを裏切っても、アイツはアンタを切り捨てることができねェ。どんな事情があってどんな覚悟をしても、結局アイツはアンタを責めずに自分を責める」
 誰を責めることもできないあの苦痛を少女は泣き言一つ漏らさずに背負ってしまう。
「そのことだけは……覚えててくれよな」
 芯を持つが故に傷つく少女は、自身の傷には目をくれようともせずに他人のために走ってしまうから。そんな少女から目を離すことができずに人は集まる。それを自分のためだと言い切る彼女だから尚更。
 そしてそれは自覚の有無を別にしてもリゼ自身、少なからず感じているはずだとゼルは思っている。
「……」
 リゼは伏せ目がちに視線を逸らし、背を向けた。
 やっぱオレの言葉じゃ響かねェか、と小さく息を吐いたゼルに。
「……先に行きます。私は全力疾走が出来ませんから。ですから昇降機の前で……」
 背を向けたままそう言ったリゼは言葉を切った。
 耳に届いたのは、ふ、と小さな吐息だけの笑い声。
「昇降機の前で……待ってます」
 諦めたかのような、受け入れたかのような。
 それもまた、苦笑。