緋色の暗殺者 The Best BondS-4

「おや……エナさんの仕業……でしょうか? ほら、それ、そこの……」
 後ろから肩越しにリゼが男の頭部を指差した。
 流石に良い筋肉つけてるなぁとしげしげと眺めていた男の胸あたりからリゼが示す部位へと視線を移したゼルは、はっとして男の首の後ろに手を伸ばした。
「この羽根は……」
 ゼルは左腕のダウンの袖から零れる羽根と、男の襟首についていた其れとを見比べる。
 間違いなく同じものだ。ではやはりこれはエナの仕業か。
「そう……なのか?」
 六人もの男を、この狭い場所で倒したというのだろうか。男たちを傷つけぬままに、ここまで完璧に気絶させたというのか。
 強烈な違和感が胸に詰まる。だが根拠の無い其れをゼルは無理矢理押さえつけた。
 エナが彼らを倒したならばそれでいい。
 だが、倒したのだとして、そしてそれでエナは今何処に?
 生まれる疑問を目の前の血が遮った。
 ずるずると続いていく血痕。
――この血は……。
「……まさか……!」
――エナのものかもしれない。
 そんな考えが浮かんだときにはゼルの体は既に動いていた。
 「あっ、ゼル待ちなさ……!」
 リゼの制止の声を振り切ってゼルは小部屋から飛び出した。
 伸びた血の痕を追って走る。
 幾つかの扉を無視し、幾つかの角を曲がった。
「ぬおっ!?」
 そしてTの字を右に曲がったそのとき、ゼルは勢い余って何かに躓いて壁にぶつかった。否、正確には躓きかけたものを避けようとして壁で鼻っ柱を強打したのだ。
「いってぇ……誰だよ、こんなトコに変なモノ……」
 鼻を摩りながらゼルが足元を見下ろすと、そこには俯せに倒れている、これまたスーツ姿の男。
 ただ、先ほどの男たちと違うのは辛うじて意識があるということ。
 そして、両手両足を銃で撃たれているということ。
 先の廊下を見ても血の痕が無かったことで、追ってきた血痕がエナのものではなかったということに胸を撫で下ろしたのも束の間、呻いた男の声に意識が引き戻される。
「おい! 大丈夫かアンタ! いったい何があった!?」
 男を仰向けに起こしたとき、ゼルは息を呑んだ。血の気を失った男の目は焦点がまるで合っておらず、がちがちと鳴る歯から零れる沫がシャツの襟を汚している。
 ショック症状――しかも表情を見るに、それが意味するのは恐怖。
 これではまともな会話など到底望めない。