緋色の暗殺者 The Best BondS-4

 嫌味や蔑みがそこに見られたのならば、言えた言葉があったのかもしれない。
 アンタだって不安だとか恐怖で父親を殺したんじゃねェのかよ、とか、無駄を省いたヒトなんてヒトじゃねェよ、とか。
 だがリゼの笑みに否定的なものは無く、そんな人間も必要ですと言っている気がして、ゼルはそれらの言葉を呑み込んだ。
「……そりゃそーだろ。アイツは仲間だし……それに、やっぱりオンナなんだからよ。アンタだってあの時、エナを助けたじゃねェか」
 リゼの心中にまるっきり心配や焦燥が存在していないわけがない。ただそれを制御する理性という名の仮面が人より少し分厚いだけなのだろう、とゼルは思った。だが、まぁ確かに女性ではありますね、という前置きのあとリゼの口から出てきた言葉は。
「ですが、私はエナさんを欲しいとは思っても仲間だと思っているわけではありませんし、死なせたくないと思っているわけでもありません」
 息を呑んだと同時に昇降盤が止まり、緑の光が目の前の石壁へと移動する。
 石壁だと思っていた一部が切り取られて影も形もなく消失したその刹那、外側からの差し込んだ強い光にゼルは咄嗟に目を庇った。
 一歩踏み出した足を止めて同じように光から顔を背けたリゼから、ふと笑い声が漏れた気がした。
「ただ見たいだけなんですよ。あの生に餓(カツ)えた欲望そのままの姿を、ね」
 表情は見えずとも、穏やかでいて欲に満ちた声。リゼこそが何かに餓えているような。
 指の隙間、振り向いてみせた彼の表情は、やはり穏やかな笑顔。
「私はその為には協力もするし……欺きもしますよ」
「……!」
 表情より声音より、その言動に不穏なものを感じてゼルは一瞬身構えた。
 だが義手が剣の柄に触れるか否かという距離でゼルの動きは止まる。
 光に慣れた目の向こう側に広がるその光景故に。
「ど……なってんだ?」
 ゼルはリゼを押しのけて前に出た。
 一階とはまるで様相が違う、光沢の放つ白い小部屋。
 緑の光がその壁を這うように光っては消えていく。
 その足元に、四人、五人、六人。意識を失い転がっているスーツ姿の男たち。そして部屋の外へと何かを引きずったように続く血痕。
「完璧にオチてんな……」
 昇降機のすぐ前に倒れていた男をしゃがみこんで観察する。きつそうなシャツの胸部からボタンが一つ弾け飛んでいるが、他には特に目立った傷も無い。