緋色の暗殺者 The Best BondS-4

「……もしかしてアンタも人並みに心配してンのか?」
「期待に沿えなくて残念ですが、心配というのとはまた違いますね。あ、壁には凭れないでください。危険です」
 間髪入れずに注意され、背中を起こしている間になんとなく問い返す機会を失ったゼルの足元から淡い緑の光が放たれる。
 それは何かの文様を描くように二人が立つ場所を縦横無尽に走りまわったかと思うと、がたん、という音が聞こえ、なんの揺れも振動も無いままに上昇を始めた。
 足元に光る円盤だけが体を押し上げていくのだ。リゼが壁に凭れるなと言った意味がわかった。壁に凭れていたならば背中は石壁で擦られて傷だらけになっていたことだろう。
「ゼル」
 一切揺れないのに何故かがたがたと音がする光の昇降盤に目を白黒させていたところに声をかけられ、ゼルは間抜けな顔でリゼを見た。
「貴方は何故、そんなにエナさんを心配するんです?」
「……は?」
 更に間の抜けた顔になったゼルに、リゼは見るに堪えないと言いたげな溜め息を吐いた。
 相手の反応を面白がるジストの嫌味な態度の方がまだマシだ、とゼルは思い、比べる対象が団栗の背比べであることに気付いて落胆した。
 何故オレの周りにはこんな人間しか居ないのだろうか、と。
 げんなりしているゼルにリゼは上を見上げながら淡々と言を継ぐ。
「心配したところで何もわからないですし、現状も変わりません。無駄な労力だとは思いませんか」
 ゼルは軽く目を瞠った。
「……無駄……っつったか?」
 ざわりとした嫌悪感が胸を這って、声は自然と低くなる。
「だからアンタは心配しねェってのかよ?」
「心配や焦燥は人の思考を鈍らせます」
 正論だ、と思う。リゼが言うことは間違いなく正論なのだろう。
 けれど苛立ちを覚えたこの心がそれを受け入れることは、きっと無い。
 割り切れる感情は、それはもはや感情とは呼べない。
 だからゼルはこちらを見ないリゼの横顔を、力を込めて見据えた。
「それでも……」
「それでも心配なんでしょうね、貴方は」
 被せられた言葉。リゼは小首を傾げるように髪を揺らし、ゼルを見てくすりと笑う。