強調するように腕を動かすと、リゼはようやくゼルが指し示すものを視界に入れた。
「……オレ、すっげェ嫌な予感してンだけどよ……」
羽根を周囲に散らせて転がっているもの――ゼルの目にはそれがエナに貸した白いダウンの袖のように見えるのだ。否、条件が揃いすぎていてそうとしか考えられない。
「穏やかじゃないですねぇ。……上、何か見えます?」
私は目が悪いので、と言って再び昇降機の壁へと視線を戻したリゼに代わり、ゼルは落ちている袖に駆け寄って拾い上げるとその延長線上を見上げた。
目を細めてみるが、螺旋階段が闇へと呑み込まれるように続いているだけだ。
「暗くてよく見えねェけど……アイツ、まさかこの階段上っていったってンじゃねェだろな」
相当な段数あんぞ、とゼルは螺旋階段に合わせて目玉を動かした。見えているぶんを辿るだけでも目が回りそうだ。
「羽根の広がり具合から見て、相当高くまで上っていると思いますよ。そして上った先で必要があって袖を破り捨てたか、誰かに破られたかしたんでしょう」
冷静に示唆され、ゼルは苦虫を噛み潰して磨り潰して更に呑み込んだような顔になる。渋面中の渋面だ。
「貴族ってのは皆、そんなに他人の危険に無関心なモンなんかよ?」
棘の篭った声にリゼは「心外ですねぇ」と言いながらもゼルを見た。
「他の貴族のことなど知りませんが、おそらくこれも私の性分なんです」
にこやかな笑顔にゼルは言葉を失う。
性分という言葉は随分と都合の良い言い訳になるものだ。
「……けっ。そうかよ。やっぱ気ィ合わねェな……」
胸の内を小さな声で独白しながら袖の落とし物を左腕に通す。流石に少し寒かったので、無いよりましだ。
と、リゼから答えが返る。どうやら耳は良いらしい。
「光栄です。それよりも、とりあえず死体がそこにあるわけじゃないんですから上を確認することの方が大事でしょう。行きますよ、ゼル」
蛇腹を開けて先に昇降機に乗り込んだリゼをゼルは不貞腐れた面持ちで追い、そこで、はたと気付く。
リゼから先ほどまで昇降機に示していた異様な興味が綺麗さっぱり消えているということに。
「……オレ、すっげェ嫌な予感してンだけどよ……」
羽根を周囲に散らせて転がっているもの――ゼルの目にはそれがエナに貸した白いダウンの袖のように見えるのだ。否、条件が揃いすぎていてそうとしか考えられない。
「穏やかじゃないですねぇ。……上、何か見えます?」
私は目が悪いので、と言って再び昇降機の壁へと視線を戻したリゼに代わり、ゼルは落ちている袖に駆け寄って拾い上げるとその延長線上を見上げた。
目を細めてみるが、螺旋階段が闇へと呑み込まれるように続いているだけだ。
「暗くてよく見えねェけど……アイツ、まさかこの階段上っていったってンじゃねェだろな」
相当な段数あんぞ、とゼルは螺旋階段に合わせて目玉を動かした。見えているぶんを辿るだけでも目が回りそうだ。
「羽根の広がり具合から見て、相当高くまで上っていると思いますよ。そして上った先で必要があって袖を破り捨てたか、誰かに破られたかしたんでしょう」
冷静に示唆され、ゼルは苦虫を噛み潰して磨り潰して更に呑み込んだような顔になる。渋面中の渋面だ。
「貴族ってのは皆、そんなに他人の危険に無関心なモンなんかよ?」
棘の篭った声にリゼは「心外ですねぇ」と言いながらもゼルを見た。
「他の貴族のことなど知りませんが、おそらくこれも私の性分なんです」
にこやかな笑顔にゼルは言葉を失う。
性分という言葉は随分と都合の良い言い訳になるものだ。
「……けっ。そうかよ。やっぱ気ィ合わねェな……」
胸の内を小さな声で独白しながら袖の落とし物を左腕に通す。流石に少し寒かったので、無いよりましだ。
と、リゼから答えが返る。どうやら耳は良いらしい。
「光栄です。それよりも、とりあえず死体がそこにあるわけじゃないんですから上を確認することの方が大事でしょう。行きますよ、ゼル」
蛇腹を開けて先に昇降機に乗り込んだリゼをゼルは不貞腐れた面持ちで追い、そこで、はたと気付く。
リゼから先ほどまで昇降機に示していた異様な興味が綺麗さっぱり消えているということに。

