緋色の暗殺者 The Best BondS-4

 リゼに付いて行った筈のジストがいつまでたっても店の中から現れないことに首を捻る。リゼは「ああ」と頷いて通りへと視線を投げた。
「彼ならその辺で待って……」
 ゼルも振り返り、夕闇の中ジストのシルエットを捜す、が。
「……いませんね」
「……ああ、いねェな」
 だいたい、ジストに付き物の黄色い声が聞こえない。
 ゼルはがっくりと肩を下げた。
「……なんだ、どいつもこいつも……!」
「同感ですね」
 このとき、ゼルは初めてリゼと「気が合うかもしれない」と思った。
 そう感じた原因が仲間の勝手な行動に振り回されて、というあたり情けないことではあるが。
「……そういえば優先順位がどうとかって言ってましたっけ……エナさんに関係しているんですかね」
 独り言のような台詞にゼルは見つめていた地面から顔を上げた。
「? なんだそれ?」
「いえね、彼がそう言ったんですよ。何か用でもあったのか……それとも、先に宿に帰ったのかもしれませんね。エナさんに浮気されると死人が出ますから」
 ゼルは目を閉じ眉間に皴を寄せて唇を歪め、人差し指で額を叩いてリゼの言葉の解読にかかる。
 そうすること数秒。
「……悪ィ。話がぜんっぜん見えねェ」
「そうですね。説明が面倒でだいぶ端折(ハショ)りました」
 おい! と突っ込みたくなるのを堪えてゼルは一つ深呼吸をした。
「……つまり、ジストはエナと一緒に居るかも、ってか? あいつ、奉公者の列ってやつを追ってったっぽいんだケドよ」
「奉公者の列を……?」
 鸚鵡返しをしたリゼは腕を組む。組んだといってもそれぞれの手をそれぞれの肘に添えるだけ、というやはり貴族然としたものだ。
「それが本当なら……旧時計塔に行ったのかもしれませんね」
「アレのことか?」
 旧時計塔と聞き、ゼルは首を捻って斜め前の建物を見上げた。近くまで来すぎたせいか時計は見えないが、先ほどから見ていたのだ。間違いない。
「ええ。プレタミューズが建設された当時からある時計塔です。何年か前から、全てのオークションの商品保管場所として使われているそうです」
 リゼは声を少し潜めてそう言ったあと、旧時計塔の方に向けて歩き出した。ゼルは脳内に疑問符をいくつも浮かべてリゼに続く。