*
雑踏の中いよいよ困ったゼルは、今は透明になっている天蓋の向こう側に見える真っ赤な空を見上げた。
「……何処だよ、ここ……つか、狭いな」
一つ一つの建物が大きく高い。どれほど道が広かろうが故郷の空とは明らかに異なり、後半はその空への感想である。
「……見つかんねェな……」
【奉公者の列】を追っていったのだろうエナを捜していたのはよいが、走ってしばらくして彼は気付いたのである。そもそもエナが見たという奉公者の列がどんな様相のものであるかも何処に向かっているのかも知らないことに。
結局はエナの姿を捜して闇雲にただ走り回っていただけ、と。まあそういうことである。
おまけに土地勘もなければ、地図も無い。彼の類稀な方向感覚を前に果たして地図を持っていればどうにかなったのかといえば、結果としては何も変わらなかっただろうから実際は地図や土地勘ではなく彼の方向音痴が全ての起因であるのだが、残念ながら本人はそのことに気付いていない。
「ん?」
歩きながら見ていた空が少し広がり、ゼルは足を止めた。
左右への分かれ道。
――急に建物低くなったな……。
きょろきょろと見回しながら、ゼルは顎を擦(サス)った。
こぢんまりとした店や宿に混ざって普通の民家が並んでいる。
このプレタミューズで生活している者達の居住区なのかもしれない。
低い建物の中、ふと視線の延長線上に時計塔が目に入る。
中央のゲートから見た城のような時計塔とはまた別の、古くからありそうな尖塔のものだ。夕焼けが相俟って味があるその時計塔がゲートから見えなかったのは、城の真後ろにあるからだろう。
「お! つーことは、ゲートはあっちか。あったまイイなオレ!」
見当違いの方向を見て頷いたゼルに道行く人が怪訝そうな目を向けるが、普段から義手や大きな声で視線が集まることに慣れている彼は気にも留めない。
「……やべ。こんな時間か」
尖塔の時計はもうまもなく五時を指そうとしていた。そろそろ宿に戻る時間だ。エナのことだから一人でさっさと宿に戻っているかもしれないという思いも交錯する中で、ゼルは数瞬考えた。
「……もうひとっ走りすっか」
右手の道には町の果ての壁が割と近くに見える。ゼルは時計塔へと続く左の道を選んで小走りで駆け出した。
雑踏の中いよいよ困ったゼルは、今は透明になっている天蓋の向こう側に見える真っ赤な空を見上げた。
「……何処だよ、ここ……つか、狭いな」
一つ一つの建物が大きく高い。どれほど道が広かろうが故郷の空とは明らかに異なり、後半はその空への感想である。
「……見つかんねェな……」
【奉公者の列】を追っていったのだろうエナを捜していたのはよいが、走ってしばらくして彼は気付いたのである。そもそもエナが見たという奉公者の列がどんな様相のものであるかも何処に向かっているのかも知らないことに。
結局はエナの姿を捜して闇雲にただ走り回っていただけ、と。まあそういうことである。
おまけに土地勘もなければ、地図も無い。彼の類稀な方向感覚を前に果たして地図を持っていればどうにかなったのかといえば、結果としては何も変わらなかっただろうから実際は地図や土地勘ではなく彼の方向音痴が全ての起因であるのだが、残念ながら本人はそのことに気付いていない。
「ん?」
歩きながら見ていた空が少し広がり、ゼルは足を止めた。
左右への分かれ道。
――急に建物低くなったな……。
きょろきょろと見回しながら、ゼルは顎を擦(サス)った。
こぢんまりとした店や宿に混ざって普通の民家が並んでいる。
このプレタミューズで生活している者達の居住区なのかもしれない。
低い建物の中、ふと視線の延長線上に時計塔が目に入る。
中央のゲートから見た城のような時計塔とはまた別の、古くからありそうな尖塔のものだ。夕焼けが相俟って味があるその時計塔がゲートから見えなかったのは、城の真後ろにあるからだろう。
「お! つーことは、ゲートはあっちか。あったまイイなオレ!」
見当違いの方向を見て頷いたゼルに道行く人が怪訝そうな目を向けるが、普段から義手や大きな声で視線が集まることに慣れている彼は気にも留めない。
「……やべ。こんな時間か」
尖塔の時計はもうまもなく五時を指そうとしていた。そろそろ宿に戻る時間だ。エナのことだから一人でさっさと宿に戻っているかもしれないという思いも交錯する中で、ゼルは数瞬考えた。
「……もうひとっ走りすっか」
右手の道には町の果ての壁が割と近くに見える。ゼルは時計塔へと続く左の道を選んで小走りで駆け出した。

