緋色の暗殺者 The Best BondS-4

 ゼルやジストあたりが聞けば目を剥いて「本気で言ってるのか」と言うに違いないことを思いながらエナは背中に手を伸ばす。
 そこにはゼルとジストの両方から所持することを義務付けられていた彼女の武器がある。エナが武器までもをゼルかジストに預けていたせいで事態がややこしくなったことがあって以来、渋々彼女が腰に帯びるようになった三節棍だ。
「取り敢えず、っと」
 三節棍はエナが手にした刹那、銀の光を放ちながら三又の槍へと姿を変えた。
その柄を取っ手に引っ掛けて力を加えてみる。
 普通に開けることと比べて倍以上の力を要し、槍を握る指が痛みを訴える。
「こ、の……クソ扉……!」
 悪態を吐きながら槍を握りなおして更に強く引くと、ぱらり、と扉の隙間から薄茶けた砂だか埃だかが一筋落ちた。
 そしてそれは除々に確かな隙間を作り、微かな光を零す。
「っし!」
 取っ手が手の届く距離になり、エナは取っ手を直に掴んだ。重たさに油断して前につんのめりかけたが、そこは階段という場所が助けてくれる。
 槍の柄を引き抜いて三節棍に戻したエナはそれを口に銜えた。
 割と太さのあるそれを銜えたことでエナは今、乙女としてあるまじき顔をしているのだが、誰も見ていないということ以前に年相応の恥じらいと縁遠い彼女が気にするはずもない。
 階段の一番端に立ち、両手で取っ手の握り具合を何度か確認し、そして。
 その取っ手を軸にエナは体を宙に躍らせた。
 同時に腕に体を引き寄せ、片足を振り上げる。――扉の向こう側へと。
 壁と同じく石畳の感覚が足に吸い付く。
 あとは、残る片足を地につけて、体が挟まれないうちに上半身を滑り込ませるだけで良い。
 そう思った次の瞬間――。
 先についていた足をがっしりと掴まれた。
「わっ!?」
 思わず声を上げたエナは、それが決してしてはいけなかったことだと思い知る。
 口を離れた三節棍が重力に従って落ちていく。