悠長に休んでいる暇は無いのだが、この好奇心のまま上りきるか否かの結論を出さねばならない。
ふくらはぎを揉み解しながらエナは更に上へと続く階段を見上げた。
「……あれ?」
身を乗り出し、目を瞬かせる。
向かい側、螺旋二周分ほど上った先に入り口と同じく鉄の扉。だが、その扉の――。
ぎぃ、という錆び付いた音がエナの思考を遮った。
咄嗟に身を隠す場所を探したが階段のど真ん中にそんな場所があるはずもない。
なんだかよくわからないけれど万事休すか、と不法侵入を一瞬悔いたエナだったが、その扉に開く気配はなく、それでいて次いで飛び込んできた声に、それが下の――入口の扉を開閉した音であったと気付く。
「……こんな所に何の用だ」
――え?
微かに聞こえてきた声にエナは我が耳を疑った。
見知った者の声に酷似している。否、口調や反響も手伝って普段と多少違って聞こえるが、これは本人か。しっとりと耳に残る低い美声は、おいそれと天から与えられるような代物ではない。
「先に商品を見ておく必要があるだろう? 黙ってついて来い」
もう一人の命令することに慣れた物言いはエナの記憶を刺激したが、声自体は聞き覚えの無いものだ。
「確認しておくが、あんたが裏切ることは無いんだろうな?」
何故この声の主が、知らぬ男と共に今、此処に居るのだ。
だって彼には今、他の――。
「よく言う。元々信用など欠片も無いだろう。それでもお前は他に道を選べない。違うか?」
エナはこっそりと顔を覗かせた。
人影は二つ。その内の一人は金糸の髪の男。顔立ちまではわからないが、やはり記憶のどこにも無い人物。
「違いないな。おれしか、あいつを護ってやれない」
自嘲気味に笑う声が短く響く。
エナは視線を移し、そして喉を上下させた。
――なんで居るの!?
喉まで出掛かった声をなんとか押し留める。
明らかに知らない男と居るのは、見間違いようのない――比類なき真実の紅を持つ、その男。
ふくらはぎを揉み解しながらエナは更に上へと続く階段を見上げた。
「……あれ?」
身を乗り出し、目を瞬かせる。
向かい側、螺旋二周分ほど上った先に入り口と同じく鉄の扉。だが、その扉の――。
ぎぃ、という錆び付いた音がエナの思考を遮った。
咄嗟に身を隠す場所を探したが階段のど真ん中にそんな場所があるはずもない。
なんだかよくわからないけれど万事休すか、と不法侵入を一瞬悔いたエナだったが、その扉に開く気配はなく、それでいて次いで飛び込んできた声に、それが下の――入口の扉を開閉した音であったと気付く。
「……こんな所に何の用だ」
――え?
微かに聞こえてきた声にエナは我が耳を疑った。
見知った者の声に酷似している。否、口調や反響も手伝って普段と多少違って聞こえるが、これは本人か。しっとりと耳に残る低い美声は、おいそれと天から与えられるような代物ではない。
「先に商品を見ておく必要があるだろう? 黙ってついて来い」
もう一人の命令することに慣れた物言いはエナの記憶を刺激したが、声自体は聞き覚えの無いものだ。
「確認しておくが、あんたが裏切ることは無いんだろうな?」
何故この声の主が、知らぬ男と共に今、此処に居るのだ。
だって彼には今、他の――。
「よく言う。元々信用など欠片も無いだろう。それでもお前は他に道を選べない。違うか?」
エナはこっそりと顔を覗かせた。
人影は二つ。その内の一人は金糸の髪の男。顔立ちまではわからないが、やはり記憶のどこにも無い人物。
「違いないな。おれしか、あいつを護ってやれない」
自嘲気味に笑う声が短く響く。
エナは視線を移し、そして喉を上下させた。
――なんで居るの!?
喉まで出掛かった声をなんとか押し留める。
明らかに知らない男と居るのは、見間違いようのない――比類なき真実の紅を持つ、その男。

