「……此処、かな」
エナは扉の隙間からそろりと中を窺った。
薄暗くて良く見えない。
何処かに窓があるのか細い光が斜めに差し込み、その光の中で埃が遊んでいる。
人の気配は無い。
扉を引くと、古い蝶番(チョウツガイ)が、ぎぃ、と鳴いた。
足を踏み入れ、エナは塔内を仰ぎ見た。
中は外観ほど広くなく、円筒になっていた。
壁に添って螺旋を描く階段が伸びているが、明かりが無い為、それが果たして何処まで続いているのかはわからない。
その部屋の中心部には。
「昇降機? 随分古い型みたいだけど……」
蛇腹の柵に手を添えて、中を覗き込む。
降りてくる気配も無ければ、こちらから昇降機を操作する方法も無い。
ちら、とエナは階段へと目を向ける。
「……帰ろっかなーとか思わないわけじゃないんだけど……」
こんな何処まで続いているか知れない階段を上る意味は無い。
ただ少年の行方が気になってしまっただけであるし、万が一見つけたところでどうしたいのかなど考えていなかった。
だがエナは階段に足を掛けた。
「なんかこう、階段があると上ってしまうというか……」
本来の目的そっちのけだという自覚はあれど、好奇心が湧いてしまっては仕方が無い。
開けられないと言われれば開けたくなる。
上れないと聞けば上りたくなる。
そういうものだし、そうであれば良いと思う。
負けず嫌いというのとは少し違う。確かめてみたいのだ、自身の目で。
我慢出来る好奇心なら端から持ちはしない。
だが、その好奇心が身を滅ぼすとエナ自身が知るのは、それからまもなくのことだった。
五分、十分。普通はそれだけでも階段を上り続けるには充分長い時間である。
それが三十分相当にもなれば誰だって後悔の一つや二つ覚えるというものだ。
ただ、そこまで上ってしまった以上、今更諦めて下るのも癪というもので。
「くっそー……螺旋階段なんて嫌いだ」
建物の形状に沿って階段が続いているせいで、上った段数の割にはなかなか高さが稼げないのである。
エナはぶつくさと不平を漏らす。
音が反響しやすい構造の為、勿論小声ではあるが。
「結構上ったと思うんだけどなっと。あー疲れた」
下から見上げた時に暗くて見えなかった辺りまでは来ているはずだ。
エナは階段の途中でどっかりと壁を背に腰を降ろし、休憩を決め込んだ。
エナは扉の隙間からそろりと中を窺った。
薄暗くて良く見えない。
何処かに窓があるのか細い光が斜めに差し込み、その光の中で埃が遊んでいる。
人の気配は無い。
扉を引くと、古い蝶番(チョウツガイ)が、ぎぃ、と鳴いた。
足を踏み入れ、エナは塔内を仰ぎ見た。
中は外観ほど広くなく、円筒になっていた。
壁に添って螺旋を描く階段が伸びているが、明かりが無い為、それが果たして何処まで続いているのかはわからない。
その部屋の中心部には。
「昇降機? 随分古い型みたいだけど……」
蛇腹の柵に手を添えて、中を覗き込む。
降りてくる気配も無ければ、こちらから昇降機を操作する方法も無い。
ちら、とエナは階段へと目を向ける。
「……帰ろっかなーとか思わないわけじゃないんだけど……」
こんな何処まで続いているか知れない階段を上る意味は無い。
ただ少年の行方が気になってしまっただけであるし、万が一見つけたところでどうしたいのかなど考えていなかった。
だがエナは階段に足を掛けた。
「なんかこう、階段があると上ってしまうというか……」
本来の目的そっちのけだという自覚はあれど、好奇心が湧いてしまっては仕方が無い。
開けられないと言われれば開けたくなる。
上れないと聞けば上りたくなる。
そういうものだし、そうであれば良いと思う。
負けず嫌いというのとは少し違う。確かめてみたいのだ、自身の目で。
我慢出来る好奇心なら端から持ちはしない。
だが、その好奇心が身を滅ぼすとエナ自身が知るのは、それからまもなくのことだった。
五分、十分。普通はそれだけでも階段を上り続けるには充分長い時間である。
それが三十分相当にもなれば誰だって後悔の一つや二つ覚えるというものだ。
ただ、そこまで上ってしまった以上、今更諦めて下るのも癪というもので。
「くっそー……螺旋階段なんて嫌いだ」
建物の形状に沿って階段が続いているせいで、上った段数の割にはなかなか高さが稼げないのである。
エナはぶつくさと不平を漏らす。
音が反響しやすい構造の為、勿論小声ではあるが。
「結構上ったと思うんだけどなっと。あー疲れた」
下から見上げた時に暗くて見えなかった辺りまでは来ているはずだ。
エナは階段の途中でどっかりと壁を背に腰を降ろし、休憩を決め込んだ。

