砂漠の只中に一筋通る舗装された道を真っ赤なオープンカーが走り抜ける。
 右も左も砂、砂、砂。
 そんな中、赤い其れは良く映えた。
 砂を舞い上げ、風を切るその鉄の乗り物には四つの人影。
「お、まえ、飛ばしすぎだっつーの!」
 助手席の後ろに座る荒削りな顔立ちをした金色の短髪に冬の空の色の瞳をした青年が運転する少女に、がなる。
 顔の半分は隠れてしまうのではないかという大きなサングラスをつけた、淡い黄色の髪の少女は耳に手をあてた。
「え!? なんかゆった!?」
 肩甲骨あたりまでの髪がばたばたと風に揺られ、少女エナは大変機嫌が良さそうだった。
「声が聞こえねェくらい飛ばすなっつってんだ!! つか、手ェ離すなっ」
 声を張り上げるこの青年、名前をゼルという。
 額充てと利き手の義手が特徴的な剣士である。
 エナは眉をしかめてスピードを落とす。
「だから聞こえないってば」
「飛ばしすぎだっ!! 前を見ろっ!!」
 うるさいなぁ、とエナは前を向き、アクセルを踏み込む。
「おま……っ! 人の話聞いてたンか!?」
「聞こえなーい」
 本当に聞こえていないのかもしれないが、鼻歌混じりで言うエナの雰囲気からして確信犯だ。
 銀色のごとき艶やかな白の毛並みを風から護るように体を丸めて健やかな寝息を立てるラファエルを膝の上に乗せ、助手席で見るともなしに地図を広げていた青年が不意に口を開いた。
「この調子だと夕方には着けそうですね」
 長めの砂色の髪に榛色の瞳の男の、外見同様の柔和な声にエナは口笛を鳴らした。
「へえ。案外近いんだ」
「なんでリゼの声は聞こえんだよ!?」
 ゼルの主張を無視していると、運転席の後部座席から、にょっと影が割り込んだ。
「ってかさぁ、なんでこいつが着いてきてるわけ? 密度が濃くてウザいんだけど」
 ヘッドレストを抱え込むようにしてエナの耳に声を送り込んだのは、黒に見紛う紅の髪と瞳を持つ青年ジストだ。
 この男、垂れ目であるにも関わらず外見はどんな品評会に出しても文句なしという美貌を誇っているのだが、いかんせん、性格に難がある。
 少なくとも、リゼが居なければこれから行く場所に意味などないということを知っている上で、そんな台詞を吐く程度には。