緋色の暗殺者 The Best BondS-4

「貴方も……私が目的を遂行するかどうかの見張り役でも買って出たつもりなのでしょう?」
 リゼの中で、ジストに対する評価点は今まで接してきた誰よりも最悪の数字を叩き出している。ジストを敵に回したことがあるからこその数字であるが、行動を共にするようになってからも点数が変わらなかったことをみると、やはりそれが彼の総評であることに変わりない。
 だが、ジストからの評価も大差無いことをリゼは知っていた。
 ほんの二ヶ月前にはエナを傷付ける側として立ちはだかっていたのだ。
 エナの負傷をきっかけに今の今まで共に生活はしてきたが、埋まらない溝の存在はリゼ自身が一番分かっている。
 ジストはきょとんとした顔で振り返り、頭の後ろの腕を解いた。
「何を言ってるのかな? まあジストさんは仕事熱心だからエナちゃんに頼まれたら何だってやるけどね」
 にやり、と嘲りに似た笑みを浮かべたジストのその表情にリゼの身体が反射的に強張る。
 以前ジストによって与えられた苦痛を身体はまだ覚えているのである。
「エナちゃんが、警戒しながら生活出来るような器用な性格なんざしてると思う?」
 彼女を一番分かっているのは俺だと言わんばかりにジストはリゼの目の前で指を左右に揺らして見せた。
「まあ、らしくなく慎重にはなってるみたいだけどね」
 信用してないわけではないさと言いながら再び歩き出すジストを見遣る。
「……なんだ?」
 背後からのその視線に気付いたらしいジストがこちらを見ずに投げた声は数秒前とは打って変わって不快そうなものだった。
 おそらくその理由を問えば「男に見られても嬉しくない」だとかいう言葉が返ってくるのだろう。
 リゼは視線の意味を隠すことなく口にする。
「……いえ、なんだか意外だなぁと思いまして」
 人の感情の機敏にフォローを入れるような人物だとは見受けられなかったのだが、彼は今確かに自身とエナの間にある壁を取り払おうとした。
 返ってきた答えは「お前に裏切られると俺の面倒が増えるだろうが」というなんとも自己中心的なものであったが、それが逆にリゼを安心させる。
 綺麗事を並べられるよりも、その方がよほど納得出来るというものだ。
「ああ、ここだな。例の酒場」
 足を止めたジストの視線を辿る。そこには確かに聞いたとおりの名を掲げた酒場があった。