緋色の暗殺者 The Best BondS-4



「……何故こちらに付いてきたのです? エナさんの方ではなく」
 溜め息混じりにリゼが問うと、隣を歩く衆目をやたら集める男は実に可愛らしく「ん?」と小首を傾げてみせた。
「会えない時間が愛を育てるから?」
「……聞いた私が馬鹿でした」
 まともな答えなど返ってくる筈が無いと薄々感じていたのだが、それでもやはり実際に言われると精神が磨り減る。色惚けしたような発言であれば尚更だ。
 どこまで本気か知れないが、少なくともこの男は駆け引きを必要とするタイプではない。会えない時間が育てるような愛は願い下げとばかりに蹴飛ばしそうでさえある。この手の男は欲を抑えつけ耐え忍ぶような面倒な恋愛などしたことが無いと断言できる。
 だからこそ、彼がこちらに同行したのにはやはり意味があるのだと確信する。この男は決してそれを口にしたりはしないだろうが。
「……にしても面倒だねえ。ジストさん、足が棒になっちゃうよ」
 頭の後ろで両手を組みながらジストは大袈裟にぼやいた。それを聞いたリゼは、まぁ確かに、と頷く他ない。
 彼らは今、エナが行きたがっていたカジノから北の区域にある酒場へと足を運んでいる最中であった。プラチナオークション会場に行った彼らだったが、此処はそのような場所では無いと突っぱねられたのだ。
 思わぬところで足止めを食らった彼らは苦肉の策でゴールドオークション会場へと赴きプラチナオークションの権利の引継ぎ話をちらつかせ――更に言うならばジストの銃もちらつかせ――たところ、一枚のカードを持たされてカジノへ行けと告げられた。
 そしてカジノの奥で闇社会の者達に散々脅され値踏みされたあと、プラチナオークションの受付である酒場をようやく聞き出せたのである。
 この盥(タライ)回しでプラチナオークションが如何に閉鎖的なものであるかが伺い知れる。
「何処に行っても信用ないんですねぇ、私。まぁ自業自得なので文句も無いですがね」
 家柄が信用に足るものだとしても自分自身に信用など微塵も無いのだと、リゼは一人苦笑した。そして一歩前を歩くジストへと声を掛ける。