「そんなこと言ったってね、この街は貴族様によって支えられてんのさ。外での法なんかこの街では何の役にも立ちゃしないよ」
「…………」
黙り込んだエナにヴィルマは続けた。
「どこの街だってきっと似たようなもんさ。民衆じゃない誰かがルールを強いる。それが現実なんだよ。あんたが気に病むことじゃない」
目が合った少年の背中をエナは見つめた。
「……でも、なんか……ヤな感じ」
「ヴィルマ! どーなってんだよ、此処のトレーニングメニューは! 全然効率的じゃねェぞ!」
親指の爪を噛んで呟いたエナに、ゼルの声が重なる。
「ああ、ウチは格闘家じゃないからね、その手の知識はあまり無いのさ。よければ教えてくれるかい?」
ヴィルマがエナの元を離れる。
やはり興味があるのか、エナの周りを取り囲んでいた団員達もその輪へと向かう。
エナもそれに続こうとして。
足を止めて振り返る。
エナはその分野に関してだけ無駄にある知識を早速披露し始めたゼルと、先ほどの奴隷の列の間で何度か目を往復させた。
そして。
(……ごめん、ちょっと様子見てくるだけ、だから)
心中で呟いたエナは、そっと踵を返しその場を離れた。――どうしても、あの少年の目が忘れられなかったのである。
さて、エナの姿が無いことに気付いたゼルは顔面を蒼白にして頭を抱えた。
それもその筈。エナが姿をくらましたことでジストやリゼに文句を言われるのはエナ本人ではなく、一緒に居たゼルなのだ。
「あのヤロ……! またかよ……!」
愚痴の一つも言いたくなるというものである。
いつも必ず会話の中心に居る少女の声が聞こえないことに疑問を感じたゼルがエナの名を呼んだことで明るみに出た、彼女の失踪。
アルタイル座の誰に聞いてもエナの行方を知る者は居らず、心当たりもカジノくらいしか思い浮かばない。
だが、彼女がカジノに行く筈がないことをゼルは知っていた。
リゼ達との待ち合わせの時間が迫っているからだ。
時間が無いとわかっていながらふらふらと何処かへ行ってしまったその理由が皆目わからず、ゼルは地団太を踏んだ。
すぐ戻ってくるのならば良い。
だが、もし時間までに戻ってこなかったら。
「目ぇ離したとかって言われて殺されっかも……」
エナが居ない時のジストの豹変振りを知るだけに、ゼルはげんなりと呟いた。
「…………」
黙り込んだエナにヴィルマは続けた。
「どこの街だってきっと似たようなもんさ。民衆じゃない誰かがルールを強いる。それが現実なんだよ。あんたが気に病むことじゃない」
目が合った少年の背中をエナは見つめた。
「……でも、なんか……ヤな感じ」
「ヴィルマ! どーなってんだよ、此処のトレーニングメニューは! 全然効率的じゃねェぞ!」
親指の爪を噛んで呟いたエナに、ゼルの声が重なる。
「ああ、ウチは格闘家じゃないからね、その手の知識はあまり無いのさ。よければ教えてくれるかい?」
ヴィルマがエナの元を離れる。
やはり興味があるのか、エナの周りを取り囲んでいた団員達もその輪へと向かう。
エナもそれに続こうとして。
足を止めて振り返る。
エナはその分野に関してだけ無駄にある知識を早速披露し始めたゼルと、先ほどの奴隷の列の間で何度か目を往復させた。
そして。
(……ごめん、ちょっと様子見てくるだけ、だから)
心中で呟いたエナは、そっと踵を返しその場を離れた。――どうしても、あの少年の目が忘れられなかったのである。
さて、エナの姿が無いことに気付いたゼルは顔面を蒼白にして頭を抱えた。
それもその筈。エナが姿をくらましたことでジストやリゼに文句を言われるのはエナ本人ではなく、一緒に居たゼルなのだ。
「あのヤロ……! またかよ……!」
愚痴の一つも言いたくなるというものである。
いつも必ず会話の中心に居る少女の声が聞こえないことに疑問を感じたゼルがエナの名を呼んだことで明るみに出た、彼女の失踪。
アルタイル座の誰に聞いてもエナの行方を知る者は居らず、心当たりもカジノくらいしか思い浮かばない。
だが、彼女がカジノに行く筈がないことをゼルは知っていた。
リゼ達との待ち合わせの時間が迫っているからだ。
時間が無いとわかっていながらふらふらと何処かへ行ってしまったその理由が皆目わからず、ゼルは地団太を踏んだ。
すぐ戻ってくるのならば良い。
だが、もし時間までに戻ってこなかったら。
「目ぇ離したとかって言われて殺されっかも……」
エナが居ない時のジストの豹変振りを知るだけに、ゼルはげんなりと呟いた。

