緋色の暗殺者 The Best BondS-4

「うん、そう。そうだった!」
 アルタイル座とは、二ヶ月ほど前にエナが世話になった演劇雑技団の名称だ。
 精霊祭のメインイベントを飾るアルタイル座に挨拶が出来る時間は限られている。
 夕刻とはいえ、すでに壮絶な準備が行われているのだろうが、この時間を逃すともっと難しい。
「では、ゼル行きましょうか」
 突然の名指しにゼルは驚きの視線をリゼに向けた。
「……はっ?」
「このまま四人で動いていても仕方ないでしょう? エナさんは他にすることがあるようですし、この人と行動を共にしたくはありませんから。荷物はこの人に預けて、私たちはプラチナオークションに向かいましょう」
 今回の彼らの目的であるプラチナオークション。
 聞けば、限られた者とその護衛しか入ることは許されないらしい。
 エナはどう考えても護衛の風体ではないし、ジストと行動するのはリゼ自身が可能性を拒否しているし、となれば護衛はゼルしか居ないというわけである。
「こちらも手続き等であまり時間があるわけではありません。不本意ですが、エナさんをお願いします」
 ジストにとっては願ったり叶ったりの申し出である。
 邪魔者二人が居なくなるわけであるから。
 だが。
「あ、そっち、俺が一緒に行くから」
 ジストらしからぬ提案に三人は少なからず動揺を覚えた。
 リゼと行動を共にすることを極端に嫌がっていたジストであるだけに、その言葉は波紋を呼ぶ。
 まあ、この男は同性と行動する時点で嫌がるのだろうが。
「……熱でもあんの?」
 エナの声音は怪訝そのもの。
「やめてよ、その珍獣でも見るような目つき。ジストさん、繊細なんだから傷ついちゃう」
 繊細かどうかはともかく、エナは「まあいいか」と視線を外した。
 四六時中休み無くこちらを疲れさせてくれるジストが離れるのはそれこそ願ったり叶ったり。
 否と言う理由もない。
 それに、万が一不測の事態が起こったとしても、ジストがついていればうまく対処してくれるだろう。
 人格はどうあれ、エナは彼の力量自体は認めているのだ。
「私は貴方と行動したくないと言ってるんですけど?」
 鼻に皺を寄せたリゼの言葉にジストは目をしばたいた。
「うん、それが?」
 俺に何か関係がある? とでも言いたげな口調。
 飄々とした口調は、それが心底から出た言葉であるとわかるだけに始末に負えない。