「もしかすると、殺人未遂の罪が追加されるかもしれませんが、エナさんを助ける為なら貴方はそんなことおそらく気にしないでしょう?」
名だたる貴族を前に剣を抜いた男だ。あの覚悟を前に殺人未遂の罪くらい瑣末(サマツ)なことだ。
その証拠に彼はそのことについては何の言及もしなかった。
代わりに出たのは、こんな言葉。
「なんでそんな身体張ってまで……」
「保身ですよ。腹を括ると決めた以上、完璧にしなければ気が済まない性分なんです。それにまぁ、買い損ねた将来有望の国際指名手配犯なら、適度に派手に見える程度の加減をしてくれるでしょう?」
そう言ってリゼは外套をソファーへと投げ捨てた。
篭っていた熱が逃げていく。
けれど、内側で燻っている熱は、もう消えやしない。
あの色素の異なる一対の瞳が、火を点けた。
「あれが私を馬鹿にしたんですね」
確認するように口の中で囁く。
「は? 今なんて……」
聞き返すゼルに、にっこりと笑みを向け、両手を広げた。
「なんでもありません。さあ、どうぞ」
熱に浮かされて既にいかれた頭には、ある種の昂揚感と達成感があった。
まるで麻薬――リゼは心中で、そっと笑った。
名だたる貴族を前に剣を抜いた男だ。あの覚悟を前に殺人未遂の罪くらい瑣末(サマツ)なことだ。
その証拠に彼はそのことについては何の言及もしなかった。
代わりに出たのは、こんな言葉。
「なんでそんな身体張ってまで……」
「保身ですよ。腹を括ると決めた以上、完璧にしなければ気が済まない性分なんです。それにまぁ、買い損ねた将来有望の国際指名手配犯なら、適度に派手に見える程度の加減をしてくれるでしょう?」
そう言ってリゼは外套をソファーへと投げ捨てた。
篭っていた熱が逃げていく。
けれど、内側で燻っている熱は、もう消えやしない。
あの色素の異なる一対の瞳が、火を点けた。
「あれが私を馬鹿にしたんですね」
確認するように口の中で囁く。
「は? 今なんて……」
聞き返すゼルに、にっこりと笑みを向け、両手を広げた。
「なんでもありません。さあ、どうぞ」
熱に浮かされて既にいかれた頭には、ある種の昂揚感と達成感があった。
まるで麻薬――リゼは心中で、そっと笑った。

