*
「どういうことだよ!? 説明しやがれ!」
面々に護衛の暴走を詫び、こちらで処断するからと拘束したゼルをオークション会場から引きずり出したまではよかったが、全身に打ち付けられるゼルの不平不満の念に、いっそのこと昏倒させてやればよかったとリゼは判断を悔やんでいた。
「一体どういうつもりですか。エナさんの機転がなければ今頃蜂の巣ですよ、私たち」
言いながら戒めを解いてやると、彼は冒頭の台詞を口にした。
変に勘がいいのも小賢しくて疎ましいが、此処まで鈍いのも考えものだ。
剣を鞘から少し浮かし、いつでも抜剣出来る体勢を取るゼルを、リゼは軽くいなした。
「やめなさい。敵意の有無も察知出来ないような素人ではないでしょう?」
それでも手負いの獣よろしく唸るゼルに、リゼは小さな苛立ちを感じていた。その苛立ちの正体はわかっている。自分は被害に遭いましたと叫んでいるような、全身に纏うその警戒心が腹立たしいのだ。
エナとは全く意味合いが異なるが、ゼルもまた真っ直ぐで純粋だ。
エナが産み捨てられた本能に忠実な獣ならば、ゼルは群れで愛されて育った百獣の王なのだ。愛されてきたが故に無知なその生き物は、汚いものや曲がったことを受け入れない。
そんなものを受け入れずとも、強く在れるからだ。
そして綺麗なまま強く成長したその獣が、弱くとも生きようと必死にあがく醜悪さを理解することは無い。だから、こうまで被害者面が出来るのだ。
オマエはオレを裏切った。オレは傷付いたんだ。信じていたのに。
そんな声が聞こえてくる気がする。
「……どういうことか、説明しろっつってんだろ」
威嚇を含む声音に胃がひりつく。
だからつい敢えて酷い言葉を選びたくなってしまうのだが、ひん曲がった性根の主としては、そんな意趣返しは可愛いものだ。
「貴方は、そうやっていつも彼女に守られてきたんですね。そうと気付かないままに」
にっこりと笑顔を添えると、彼は途端に心を乱す。わかりやすすぎて面白みが無いくらいだ。
「……守られてきた? オレが……? 彼女――エナに?」
言われたとおりの言葉を一つ一つ整理しながら口にしたゼルは、一人の名前を発する頃には愕然とした表情を浮かべていた。
「ああ、わかっているとは思いますけど、念のため、先に言っておきます。エナさんは、貴方を庇うためにあのような言動を取りました。ここまでは……いいですね」
急に突き付けられた真実、といった顔のゼルに、皮肉を込めて強引に話を運ぶ。
「そして貴方の独りよがりな行動のせいで、私は彼女から面倒を押し付けられました。これも……いいですよね」
あの時、向けられた視線。
誰だと問いつつも見せたあの眼差しは、リゼが以前エナに惹かれた時のそれと同じものだった。
生き抜く覚悟と執念を滲ませた獣じみたその眼差しが彼女の自己完結であったならリゼは無視していたかもしれない。
だが獣のような飾り気のない本性を曝しながらも彼女は身を委ねたのだ。
過去に助けられておきながら、あたしは頼んでいない、だから関係ないのだと突っぱねたことのある彼女が、今回、確かに何かを託した。
あんたなら何とか出来る――そんな全幅の信頼を無視することは出来ない。
添うか踏み付けるか、二つに一つだ。
「どういうことだよ!? 説明しやがれ!」
面々に護衛の暴走を詫び、こちらで処断するからと拘束したゼルをオークション会場から引きずり出したまではよかったが、全身に打ち付けられるゼルの不平不満の念に、いっそのこと昏倒させてやればよかったとリゼは判断を悔やんでいた。
「一体どういうつもりですか。エナさんの機転がなければ今頃蜂の巣ですよ、私たち」
言いながら戒めを解いてやると、彼は冒頭の台詞を口にした。
変に勘がいいのも小賢しくて疎ましいが、此処まで鈍いのも考えものだ。
剣を鞘から少し浮かし、いつでも抜剣出来る体勢を取るゼルを、リゼは軽くいなした。
「やめなさい。敵意の有無も察知出来ないような素人ではないでしょう?」
それでも手負いの獣よろしく唸るゼルに、リゼは小さな苛立ちを感じていた。その苛立ちの正体はわかっている。自分は被害に遭いましたと叫んでいるような、全身に纏うその警戒心が腹立たしいのだ。
エナとは全く意味合いが異なるが、ゼルもまた真っ直ぐで純粋だ。
エナが産み捨てられた本能に忠実な獣ならば、ゼルは群れで愛されて育った百獣の王なのだ。愛されてきたが故に無知なその生き物は、汚いものや曲がったことを受け入れない。
そんなものを受け入れずとも、強く在れるからだ。
そして綺麗なまま強く成長したその獣が、弱くとも生きようと必死にあがく醜悪さを理解することは無い。だから、こうまで被害者面が出来るのだ。
オマエはオレを裏切った。オレは傷付いたんだ。信じていたのに。
そんな声が聞こえてくる気がする。
「……どういうことか、説明しろっつってんだろ」
威嚇を含む声音に胃がひりつく。
だからつい敢えて酷い言葉を選びたくなってしまうのだが、ひん曲がった性根の主としては、そんな意趣返しは可愛いものだ。
「貴方は、そうやっていつも彼女に守られてきたんですね。そうと気付かないままに」
にっこりと笑顔を添えると、彼は途端に心を乱す。わかりやすすぎて面白みが無いくらいだ。
「……守られてきた? オレが……? 彼女――エナに?」
言われたとおりの言葉を一つ一つ整理しながら口にしたゼルは、一人の名前を発する頃には愕然とした表情を浮かべていた。
「ああ、わかっているとは思いますけど、念のため、先に言っておきます。エナさんは、貴方を庇うためにあのような言動を取りました。ここまでは……いいですね」
急に突き付けられた真実、といった顔のゼルに、皮肉を込めて強引に話を運ぶ。
「そして貴方の独りよがりな行動のせいで、私は彼女から面倒を押し付けられました。これも……いいですよね」
あの時、向けられた視線。
誰だと問いつつも見せたあの眼差しは、リゼが以前エナに惹かれた時のそれと同じものだった。
生き抜く覚悟と執念を滲ませた獣じみたその眼差しが彼女の自己完結であったならリゼは無視していたかもしれない。
だが獣のような飾り気のない本性を曝しながらも彼女は身を委ねたのだ。
過去に助けられておきながら、あたしは頼んでいない、だから関係ないのだと突っぱねたことのある彼女が、今回、確かに何かを託した。
あんたなら何とか出来る――そんな全幅の信頼を無視することは出来ない。
添うか踏み付けるか、二つに一つだ。

