悩みながら苦しみながら生きるのは疲れるから、考えること自体を放棄した。
 けれど遂に行き着いてしまった。
 自身の、本質へと。
「オレの手を取れ!」
 必要としてくれる存在をこそ、必要としているのだ。
 我が儘に振る舞うくせに頼ることを知らない、甘え下手な妹分が心を委ねてくれているという自負が、この心の糧となっている。
 今はもう手放し難くて堪らない糧なのだ。
 だから言うのだ。
 オレの手を取れ、オレを必要としろ、と。
 弱者を守りたいわけではない。そんな高尚なことは微塵も考えていない。
 必要としてくれる人間を失うことを恐れるがゆえに何も抱え込まず、遠い故郷の家族も省みずに高みを目指してきたけれど。
 本当は、何よりも仲間を――この存在に価値を与える心通わす存在を必要としていた。
 そして自分は今、彼女の隣にこそ、その価値を見出だしている。
――自分勝手な!
 ゼルは自身を強く叱咤した。
 だがどこかで安堵もした。
 此処で今、剣を振るい手を伸ばす理由が自分の為でよかった、と。
 戦う理由はシンプルな方が迷いがなくていい。
 だというのに。
 全てを敵に回す覚悟をしてまで伸ばした手が掴んだもの。
 それはエナの手ではなく――拒絶だった。
「……?」
 エナは、手を取らなかった。
 いくら待とうとも、彼女は動こうとすらしなかった。
 色違いの瞳はただゼルとリゼを見上げ、ゆっくりと瞬きを繰り返しているだけだ。
 商品を落札者の部屋へと移動させるために商品ブースが作動する。
「このまま奴隷になりてェのか! おい、さっさと……」
 業を煮やして口を開いたときだった。
 エナの目が険しいものへと変化する。否、それは警戒の眼差しだったのか。
「だ、れ」
 彼女の口から零れた単語にゼルは目を見開いた。
 肝が冷える感覚。
 瞬きすら出来ずにいるゼルに、エナははっきりと意志を持った口調で繰り返した。
「誰。」
 エナに何が起こったのか――などと考える余裕は与えられなかった。
 その刹那、首に激痛が走ったからだ。
 反射的に痛みに反応した身体。ぐらりと視界が揺れる。
 エナを引っ張り上げるはずだった手が宙を掴んだ。
 激痛の原因が電流であることを知ったのは、痛みに身体の自由を奪われ崩れ落ちる時に見た、リゼの手だ。