恵梨も一緒だ。
「なんか、この匂いってさあ、ゴミの匂いだけじゃないよね?」
恵梨が、ぶーちゃんの周りをかぎ始める。
途端に、大げさに顔をゆがめて顔を背けた。
「わ、きつっ!」
ぶーちゃんが汗臭い。そう言いたいらしい。
確かにぶーちゃんはもともと汗っかきで、さっきから嫌な汗をいっぱいかいたけど、その分清潔にはすごい気を遣っている子だ。
教室に戻ってくる前に、ちゃんとトイレで汗拭きシートで体を拭いてきたから、臭いわけがない。
「ちょっと、離れてよ!」
ぶーちゃんは、おどおどして窓際へ逃げた。
「風上に行かないでよ!公害!」
ぶーちゃんは、どこに行ったらいいか分からなくなってしまう。
「ねえ、窓の外に行ったら!」
由奈が言ったのを聞いて、周りで笑いが起こった。
窓の外には、テラスなんかない。
「・・・」
ぶーちゃんが、小刻みに震えだした。
私には前向きスイッチがあるから、何とでも言い返せるけど、ぶーちゃんにはその術がない。
ぶーちゃんは、剣のような言葉を真正面に浴びて、本当に窓の外に行っちゃいかねないような、思いつめた表情になっていた。
「ちょっと、それは言いすぎだよ」
私は、ぶーちゃんと由奈の間に立った。



