地元の駅まで戻ってくると、こじんまりとした居酒屋に入る。



電車では、昴兄の会社の面接話を聞かされては聞き流していた。

偶然にも昴兄に遭遇するなんてハプニングは起こらなかったようで、安心したようなはたまた淋しそうな、声のトーンだった。







「生2つと卵焼きと韓国サラダ」


笹の独断と偏見により、2人で飲む時の一杯目は必ず生。

別にお酒に強いわけじゃないのに、生なの!といつも聞かない。






そんなことの一つ一つが可愛いな、と思ってしまう。





「じゃー、失恋に、かんぱい?」

とぼけた顔がやけに可愛い。



「さぁちゃんの片思いにかんぱーい!」






空きっ腹にビールを入れたせいか、二口だけなのに少しフワフワしてきた。


三杯目に口をつけた時には、脳が完全に酒を拒否反応。

やばいな、酔う予定はなかったのに。
思考、ぐちゃぐちゃ。





「唐揚げ、美味しいよ?」



そんな、笹の声もカップルシートのような L字型のシートに座ってるせいか、顔の距離がやけに近いことに動揺して、頭に入っていかない。





「さぁちゃん、」


「ん?」






「好きだよ?」






「っ…知ってるよ?」




「さぁちゃんは、知らない。」





「どーしたの?酔った?」



困ったように笑う笹。

全部、わかってるんでしょ?







困らせて、ごめん。


苦しませて、悩ませてごめん。






けど、我慢できない。