情炎の焔~危険な戦国軍師~

一方、ある日の江戸城。


徳川家康は子の秀忠と話していた。


「父上、豊臣は依然として牢人を集めているようです」


「やはりと言うべきか、豊臣方には真田もいるそうだな。だが、既にかの者の元へ間者を送り込んである。来るべき時に備えてもうずっと前からな」


「間者でございますか?」


「もうそろそろ帰ってくる頃合いか」


「家康様」


そこへ1人の背の高い男が現れた。


「おお、噂をすればだな。よくぞ戻った。あちらはどうであった‍?」


家康が促すと、彼はその場に膝まづき豊臣の現状や藤吾の件を事細かに述べた。


「…このようなわけで大坂城はすでに無防備な状態にあります。それにしても、あいつがバカげたことをしなければすべて上手くいったのに…」


「それはお前にとって災難であったな」


「私の言うことも聞かずに侍女なんぞに惚れ込んで。おかげで家康様の差し金であることが知られてしまいました」


「まあ、良い。大坂城の堀をこちらがさっさと埋め立てた時点ですでに我々が有利なのだ」


ふふん、と笑う家康に男は黙って更に頭を深く下げる。


「何はともあれ、ご苦労であった」


「はっ」


「ひとまず次に備えてしばし休んでおくがよい…藤吾よ」


「御意」


藤吾は井戸に行き、体をすすぐために、着ていた黒い装束を一瞬にして脱ぎ捨てた。


「豊臣を少しばかり混乱させて来たことになるが、さて、次はどうするか…」


その細い影のような身体には、影月につけられたはずの傷がひとつもなかった。


「…」


そして、そんな彼を物陰からそっとうかがう者がいた。


40代くらいでありながら漆黒の髪と、凛としたたたずまいが印象的な女性。


ゆいであった。