それから2ヶ月半後、記憶は戻っていないながらも精神的に回復した先生は無事に退院した。


もちろんこの2ヶ月半、のんびり過ごしていたわけではない。


記憶を取り戻させるために思い出のセリフや写真を用いるなど、様々な方法を使った。


たまに無理をした先生が頭痛を起こして苦しむ顔を見て胸が痛んだりもした。


ある時は自分にいらだった先生が椅子を蹴っ飛ばしたり、「ほっといてくれ!」と怒ったりもした。


それでも彼はあきらめず自分と戦い、頭痛も起こさなくなって元気になっていったのだ。


さて、病院を出ると街はすっかりクリスマス一色だ。


わくわくしてくるようなクリスマスソングがどこからともなく聞こえ、木々にはイルミネーションが灯り、吊り下げられた色とりどりの飾りがきらめいている。


またクリスマスイブがやってきたんだ。


先生に想いを伝え、フラれ、そして家を飛び出した私を必死に探しに来てくれて、一緒に夜道を帰ったクリスマスイブ。


あれからもう6年経つのか。


時の経つのは本当に早いな。


「クリスマスイブか…」


隣の先生もぽつりと呟く。


あ、そういえば1つ気になったことがあったんだ。


「先生」


「はい?」


「仕事って記憶を失ってからずっと休んでますけど、大丈夫ですか?」


「そうですねぇ。ケガをしているわけでも病気を患っているわけでもないですから、年明けには復帰しようかと」


「そうですか」


「ええ。心配をかけたくないので、生徒達には記憶を失っているのは秘密にして」


「生徒さん思いなんですね」


「いや、そんな。押し掛けられると困るからって病院の名前も内緒にしていた奴ですよ」


じゃ、本当のことを知っているのはわずかな人?


だから入院していた時に私がお見舞いに行っても、ほとんど他人と会わなかったんだ。


私は妙に納得し、先生と共に帰路についた。