「痛いよ、痛いよ郁也!痛いです!」 「無駄に塗りたくったからじゃない?」 「手加減を覚えようよ!」 それから、ごしごしと何度かハンカチで拭うと、 やっと郁也は私の目許と頬から手を離した。暗かった視界が明るくなる。 「い、いきなりすぎるんだけど、郁也」 「いきなりやったから」 「ファンデーション、落としたの?」 「逆効果っぽかったからね」 「ええ…」 言いながら、汚れたハンカチを郁也は、また蛇口を捻って洗い始めた。 『汚してもいい?』さっきの言葉を思い出す。…こういう、意味だったのか。