いたんだ。
郁也、教室にいないと思ったら。
「…なんで私が担任に頼まれたの知ってるの?」
「野崎に伝えるように言われたの俺だし」
「はい?」
「夏樹に野崎に伝えといてって頼んでここで待ってた」
「私の苦しむ姿を拝むためですか」
「よくわかったな」
「本物の鬼畜がいる」
これはない。彼氏にしては酷すぎる気が…。
不意に、昨日の情景がフラッシュバックする。それを忘れたいんだけど、どうにも出来ない。
とりあえず、話さなければ。口を開かなければ。
「あ、あのさ、えっと…郁也、あれだよね。…忍者みたいだね」
「そのばしのぎって言葉がぴったりだな、今の野崎」
「そ、そのばしのぎ?」
「どうにかしようとしてる」
郁也の指先が、私の髪を弄ぶ。

