「―――複雑なんだよ、あいつ」




どくん、これ以上にない胸騒ぎがした。


自分は今どんな顔をしているんだろう。鏡を見る気力も湧かないけど。

郁也と付き合ってる私はこの人から見たら【可哀相】?

なんで?…なんで、だろう。




「複雑って、どういう意味ですか」

「…それは言えない。個人的な問題だからな」

「、」




眉を顰た。


狡い。…そこまで言っておいて、それはないんじゃないか。

濁された言葉に顔をしかめたが、この担任はなんとも思ってない様子だった。




「…そんなに、知りたいのか」

「…知りたいです」




担任に聞かれて、すぐにそう答えた。


知りたいに決まってる。だってなにも知らないのだから。


なにも、教えてくれないのだから。



笑う担任に、「なにが複雑なんですか」再度、我ながらしつこいなと思いながらも問い掛ける。


目前の男が、静かに口を開けた。




「…あいつは――――」




…だけどそれより先は言ってもらえなかった。


がらりと荒々しく開いた教室の扉の所為で、言葉が遮られてしまったからだ。