それどころじゃない。
それどころ、じゃないんですが…!


郁也の言うとおり、今きっと自分の顔は真っ赤になってるはず。

現にいま、すごく熱い。じりじりと熱い。


郁也、どうしたっていうんだろう。

どくん、どくん。
まだ踊り狂ったままの心臓。痛いくらいだった。




「…佳奈」

「、」




伏せ目がちになって、郁也は小さく私の名前を呼んだ。


耳に届く声で、身震いしそうなほどに緊張している。指先まで震えてしまいそうだ。


すっ、と唇の上を郁也の人差し指でなぞられる。

ぞくりと寒気が背筋に襲い掛かる。息を殺すように、噛み締めたままの自身の唇。




「…、」

「…気にしなくていい」

「…、え」




漏れた声。

小さな声は、独り言のようでもあり、私に言い聞かせるようでもあった。


気にしなくていいって。…なにを?



聞き返そうとした私に、近付く郁也の顔。




「…っ、あ、え」




びくりと肩が上下する。
そういえば、郁也の指先はいつの間にか頬で止まっていた。


近付く郁也に、次の瞬間は予想出来た。

静かに瞼を下ろす。



…はぐらかされたのはわかったけど、それを突き止める術はもう手元には無かった。