顔を上げると、私を視界に入れたお父さん。 昔のことを思い出すように瞬きを数回繰り返してから、そう口をついた。 「…でも、弾いてないんでしょ。最近」 「弾いてないよ。…ただなんとなく、今弾きたくなった」 「…、」 なんとなく? 表情は崩さずに笑うお父さんに、胸が締め付けられる。 ――――ピアノ、か。 こくりと頷くと、お父さんがソファから立ち上がる。 ピアノは二階の部屋から一階に下ろした。 お母さんの遺影が飾ってある一室に、黒塗りのピアノは置かれている。