お父さんだって泣きたいに決まってる。声を枯らしてでも、きっとお母さんの名前を呼び続けるに決まってる。

愛人を、亡くしてしまったのに、私から見たお父さんは酷く落ち着いていた気がした。




「、」




でも、そんなことなかったのかもしれない。

自分の背中に回された指先が、かたかたと微かに震えていることに、気が付く。



ごめんね、お父さん。
私はなにも、出来なかった。守れなかった。

瞼を下ろせば、鮮明に浮かび上がる【赤色】。

ぞくり、背筋が寒気に襲われる。…思い出すだけで吐き気がした。




「…佳奈は助かったんだから、自分を責めたりしないでくれ」




お父さん、本当にごめんなさい。