「…佳奈」 「なに?」 弾き終えたピアノの鍵盤を静かに指先で押したお母さん。 ぽーん、高い音が一つ、叫ぶ。静かな室内に響いた音。 「…すこし、話したいことがあるんだけど、さ」 「なに?」 「…ちょっと、出掛けようか」 「え、今から?」 休日の昼下がり。お父さんは仕事でいない。 私とお母さんしかいない静かな家の一室で、お母さんは私に笑いかけた。 「…うん。今から。ちょっとだけ、ね」