「…時間、つくれなかった。…今更だよね」
「…お母さん?」
「…本当、今更だ」
「……」
返す言葉が出てこない。
他人よりも語彙が少なくて、無知な私にとって、
今のお母さんに、かけるべき適切な言葉を届けることは、どんな数学の問題を解くよりも難しいことだった。
思わず拳を強く握りしめる。わからない。自分の母親、なのに。
ひとり呟くように言ったお母さん。なんで急に、そんなことを言い出したんだろう。
と、そのときだった。
「―――あれ?由奈先生に佳奈ちゃん?掃除の時間もう終わりですよ?」
がらりと遠慮なく開いた教室の扉。
そこからこちらに顔を出したのは、隣のクラスの掃除をしていた先生だった。

