あちらこちら、忙しなく上下に動く指先から流れる、優しく響く旋律。 思わず息を呑んでから、耳を澄ます。 ピアノには詳しくない。経験なんて無い私には、これが上手いのか下手なのかも判断出来ない。 弾ける曲なんて、猫ふんじゃった、とか…それくらい。 だけどそんな私が第一に思ったことは、 …それを語彙の少な過ぎる私が、これを一言で表すとしたら―――。 ―――――すごい。 それだけだった。 ただただ、その三文字が脳裏を駆け巡る。全身に鳥肌が立っていたことに今更気付いた。