「わ、悪いし、いいよ。ほら、私、一人で帰れるし」




大丈夫だと、へらりへらりと笑いながら郁也に言えば。

予想に反して、彼は私の意見には頷かなかった。

…郁也なら、目前にいる郁也なら、『わかった』そう頷いてくれるかと思った、のに。




「…帰れる?」

「――――え」




彼は、いつになく顔を顰た。…どうして、そんな顔をするの。


郁也はまだ、横断歩道を渡らない。ちかちかと青色が点滅し始める。

「い、郁也。信号、」隠したい、指先を。どうにか郁也に向かって声を搾り出す。




「…今の佳奈が一人で帰れる?」

「え」




郁也は私を見て、そう言った。その声色が、なにを示してるのかがわからない。