父が出ていくと、少し表情を崩してウィルヘルムがよってきた。


まだまだ年端もいかないこの弟に、こういった気遣いをさせてしまうところが、父の悪いところだとファイナは思う。


「姉様、今日はどんな本を読んでたの?」


「魔法の本よ」


「魔法?火を操ったり水を操ったりする、あれ?」


「それも魔法だけどね」


と、そこでファイナは一度区切り、口を開く。


「魔法にはね、二種類あるのよ。自然に働きかけるものと、人の精神に働きかけるもの」


「へぇ」


「帝国には魔法使いなんてほとんどいないし、一般的じゃないのも仕方ないんだけどね。今読んでるのは、隣の国で昔使われてた魔法。そっちは人の精神に働きかける方」


「魔法をかけられるとどうなるの??」


弟は目を輝かせて、興味津々にきいてくる。


ファイナはそれを嬉しく思いながら説明する。


「例えば、気を滅入らせたり、戦意を喪失させたりできるわ。今のは負の方向に働く例だけど、正の方向に働くものもあるの」


「すごい」


ファイナは弟と会話をしながら、やっぱり自分にはこういう方が会っていると感じた。


自分には結婚なんて早すぎる。

異性になんて興味はないし、うまくいかないだろう。


ファイナは憂鬱に思いながら、窓の外に目を向けた。


雲一つない、素晴らしい晴天だ。


まるでファイナの内心とは裏腹に。