「もー無理だわ。失敗するけど、いいわよね別に。どーせ私の縁談だし」

「ファイナ、お前は前回もそうやってぐだぐだ言ってたろう?今回屋敷に招待するまで踏み切ったのは、そもそもお前のせいだぞっ」


そう言われて、さすがに文句をたれていたファイナも口をつぐんだ。


実際、ファイナに初めて求婚がきたのは十四の時だ。
帝国における貴族の令嬢たちの結婚時の平均年齢は十六。
早いものはその年に結婚する者もいるが――実際法律では女性は十四歳から結婚が認められている――、二十を過ぎればそうそう結婚話にはありつけない。

とはいうものの、ファイナは色恋よりも知識――とりわけ語学や異国文化に興味関心が強かったため、縁談をはねつけ続けてきた。

デルファウスト家は侯爵家というだけあって、求婚の数は他家の貴族令嬢と比べてかなり多かったが、ファイナは構うことなく断り続けて、いよいよ十八。

十八という年齢は、際どいところだった。


「お前がいつまでたっても結婚する気配すら見せないから、こうして席まで設けたんだぞ?
いいか?今回選んだ四人は、誰を選んでも文句はなしだ。家の格は確かに下がるが、どれも素晴らしい家だぞ」

「わざわざ気を使ってくれてありがとう。でも、きっとうまくいかないわ」


(私自身が結婚、というものにどうも関心がもてないもの)


ファイナは朝まで読んでいた本のことを思いだす。


美しい装丁。
それは異国の職人によって施されたもので、何でも職人自ら一冊一冊丁寧に作業した、どれ一つ同じもののない至高の一品だという。