「ファイナ、なんだその反応は。父はつまらないぞ」

「だったら今からでもこの無駄な婚約者選びをやめてください。前にも言ったけれど、私は結婚になんか興味ないの」


見るからにがっかりそうな顔する父に彼女がそういうと、シャドーはきっと顔色を変えた。

それに一瞬ひるんだファイナに、彼は言う。


「ファイナ、お前ももう十八だ。そろそろ嫁ぐにもいい年だろう。我儘を言うな」

「そうは言っても、興味ないのは本当だもの。私は今まで通りたくさん本を読んで、いろんな国の言葉や文化を知れればそれでいいの」

「本といえば、お前はまた今日も夜更かしして、令嬢というのはそんな知識を蓄え、寝る間も惜しんで言葉を覚える必要はないんだ。お前は嫁いで、その先で夫とともに子をなす。それだけでいいんだ」

「それこそつまらないわっ。何が楽しくて好きでもない男に嫁いで子をなさないといけないのよ。本でも読んでる方が有益だわ」

「ファイナ!」


にらみ合う父と娘。

その間に入るのは、息子だ。


「でも、お姉様はすごいですよ。この間、スーガル語をマスターしたそうですよね?これで…七か国語、だっけ?」

「いいえ、九か国語よ。でもスーガルは読めても書く方がまだあやしいの」

「でもすごいよ、お姉様。先生だってそんなに話せないし、文字だって読めないよ」

「ウィルヘルム、いいから黙っていなさい」


シャドーに低い声で言われ、ウィルヘルムはしょんぼりする。

ルノーは落ち込んだウィルヘルムをそっと慰める。


それを見ながら、ファイナはため息をついた。