「大丈夫ですよ、悪いようにはなりません。旦那様だって、別にファイナ様を苦しめたくて今回の婚約者選びを行ってるわけじゃないんですから」



確かにその通りだ、と思う。


横暴な手段ではあるが、一応の気遣いは見せてくれた。見せなかったら、逃亡という実力行使を行っていたかもしれない。



「どの道、いつかはファイナ様だって嫁がなければいけないんですよ。それが少し早まっただけだと思いましょう」

「…ルノーは簡単に言うわね」



ファイナはゆっくり起き上がり、ため息を吐いた。



「放っておくという選択肢はないのかしら?別に私一人、家にいて養うくらいお父様にはできるはずよ」

「…往生際が悪いですよ、お嬢様」



ルノーの言葉に、ファイナは口を噤む。


ルノーが自分を“お嬢様”と呼ぶときは、彼女が苛立っている、怒っているという合図だ。昔からルノーはこの合図でファイナをびびらせてきた。



(こんなうじうじしてたら、ルノーも怒ってしまうのは確かよね…)



自分でも往生際が悪すぎるのはわかっていた。

でも、心の方が追い付いてこないのだ。



「それと」




「…何?」

「ネビル様からお誘いが」




「…今言う?」

「必要ですもの」



ルノーはにっこりと笑う。



「荒療治でどうにかしないと、ファイナ様はどうにもならないでしょう」



このメイドには、やっぱりかなわない。


ファイナは自分の体にムチ打って、ベッドから離れた。