「ファイナ?」
名前を呼ばれて、はっとした。
訝しげに自分を見つめる五人の目に、ファイナの脳は一気に動き出す。
次の瞬間には、自分が屋敷の広間にいること、自分の婚約者候補と顔合わせしていること、最後のレイズ・ゼレシア伯爵に挨拶されていること――現在の状況を思い出す。
(何をぼーっとしてるのよ、私はっ)
先ほど自分を襲った感覚の正体はわからないが、広間に漂う変な空気を打破しなければいけないのは、よくわかった。
ファイナは慌てて取り繕って笑みを浮かべた。
「失礼しました。よろしくお願いしますわ、ゼレシア伯爵」
返された冷涼な笑みに、ファイナはどうしてか視線を外してしまった。


